スピッツ 全フルアルバム 感想 -初期-

スピッツの全フルアルバムを、(独断で)初期・中期・後期と分けて振り返ります。インディ期は割愛。曲の色付けは赤太字(名曲)赤字(大好きな曲)太字(良曲)みたいな感じで、下線曲が作品の個人的ベストトラックです。

それでは早速。スピッツファンの方も、ちょっとどんなバンドか気になった方も、彼らの一筋縄でない25年ほどを一緒に振り返っていきましょう。

Spitz_1991.jpg 1991年
初期(1st~惑星のかけらまで)
初期は『惑星のかけら』まで。発売から20年を経てなおオリコンチャートとは無縁、しかし邦ロック史におけるその評価は確固たるものという不思議な作品群です。この時代の音楽性最大の特徴は、「洋楽」「インディ」の二言に尽きると思います。「洋楽と邦楽の違いとは?」も「インディとは?」も議論が尽きない問いかけですが、自分の言葉の意図を物凄くはしょって言えば、「盛り上がるサビを無理に作らない」「売れ線よりも自分たちの音楽性重視」ということです。『Crispy!』以降の作品と比べると、その「売れ線度数」(=サビ盛り上げ感)の低さは一聴瞭然。なので「ロビンソン」や「涙がキラリ☆」といった曲を目当てにすると、「印象に残らない・地味」といった印象を持つかもしれません。

しかしそれは弱点では全くなく、そうした、邦楽ポップスマナーに則らない曲作りがアルバムの雰囲気を統一し、その完成度を高めていると思います。何より、ヒット性――時代性ともいえるでしょう――が皆無で、その分ホントに自由なんですよね。洋楽への露骨なリスペクト、しかしメロディの譜割は日本語仕込み。甘いマスクから、全てが美言にも、ただの下ネタの暗喩にも感じられる詩を放つ。今もそうとはいえ、この時の彼らは間違いなく唯一無二でした。そんな、まだJ-POPになる前、インディなロックバンドだったスピッツの作品群を紹介します。

注・今回の3作、自分はリマスタ盤でしか聴いたことがありません。なので感想はリマスタ盤準拠です。リマスタと旧盤の区別は品番でつきます。POCHが旧盤=ポリドール、UPCHがリマスタ盤=ユニバーサルです。初期作の新品はもうないと思いますが、レンタルの際は帯などを見て判断し、しっかりリマスタ盤を選びましょう。

 

スピッツスピッツ
(2002/10/16)
スピッツ

割と異質なジャケ
01. ニノウデの世界 (4:31) 06. テレビ (4:07) 11. めぼし (3:36)
02. 海とピンク (3:38) 07. タンポポ (5:09) 12. ヒバリのこころ (4:51)
03. ビー玉 (4:42) 08. 死神の岬へ (3:43)  
04. 五千光年の夢 (2:42) 09. トンビ飛べなかった (3:31)  
05. 月に帰る (4:25) 10. 夏の魔物 (3:11) 収録時間 48分17秒

91年作。1st。総評・★★★★★
スピッツサウンドの原点にして完成形

記念すべきメジャーデビューアルバム。ローリングストーン誌日本版選定日本のロック名盤ベスト100では94位に選ばれています。ライナーノーツで山崎洋一郎氏が書いているように、スピッツのバンドサウンドは今もこの当時とほとんど変わっていません。80sのネオアコやニューウェーブ、パワーポップに加えて、当時の洋楽シーン(90sロック)までを下地にした、ユーモアの残るシリアスすぎないバンドサウンド。それとは反対に日本語の持ち味を活かした純邦楽・歌謡曲的なメロディライン。一枚目にしてそのスタイルが完成されているのには驚かされます。

その上で「今作は何が今と違うか」といえば、やはり前述した楽曲のインディ感でしょう。メロディセンスの高さはともかく、今のような盛り上がり、圧倒的な良曲感は見受けられません。しかし、その分一曲ごとの世界観が強固であり、それゆえ浮き彫りになっているのが草野マサムネの描く詩の魅力だと思います。巧妙に装飾されたリビドー表現(下ネタ)は今も健在ですが、「シュール」と評された今作の「一見フツウだけどよく見たら不気味」という言葉の選び方は秀逸の一言。当時23歳!恐れ入ります。すごくポップ、でもちょっとダーク。されどシリアスじゃない。最終的によくわかんない、なんか良い。そんなスピッツの魅力が凝縮された一枚です。

楽曲だと後半の4曲が特に好きです。ところで自分は「うめぼし食べたい僕は今君に会いたい」の一節が好きで、これを「ふれると酸っぱくて顔がひきつってしまうような、でも食べたくなるもの=うめぼしが食べたい→そんな君に会いたい」みたいな少し歪な愛情表現だと解釈してました。が、どうやらうめぼしとは女性の体の一部の隠喩らしく、ただの下ネタでした。僕らこれから強く生きていこう…。



名前をつけてやる名前をつけてやる
(2002/10/16)
スピッツ

のちの猫になりたいである(違う)
01. ウサギのバイク (3:28) 06. プール (3:52) 11. 魔女旅に出る (3:59)
02. 日曜日 (2:36) 07. 胸に咲いた黄色い花 (3:24)  
03. 名前をつけてやる (3:44) 08. 待ちあわせ (2:58)  
04. 鈴虫を飼う (4:48) 09. あわ (4:31)  
05. ミーコとギター (2:46) 10. 恋のうた (2:40) 収録時間 38分54秒

91年作。2nd。総評・★★★★★
スピッツにしか鳴らせない11曲の世界観
前作からわずか8カ月というスパンでリリースされた、スピッツの最高傑作ともいわれる名作「名前をつけてやる」。音楽雑誌スヌーザーの「邦楽名盤ランキング150」で22位に選ばれるなど、その評価は高いです。前作から音楽性は地続きですが、「ライド歌謡」とメンバーが評したそのサウンドは、当時のUKロックのムーブメント「シューゲイザー」がさりげなくフィードバックされています(大雑把に言うと、作中で聴こえるキラキラした感じの音、かすみがかった音がそうです)。今ではすっかり1つのジャンルとして評価も定着したシューゲイザーですが、91年当時は(ライド歌謡の元ネタ)rideが1stを出したりマイブラがラブレスを出したりと、まさに黎明期。その流れをリアルタイムで感じ、キチンと自分たちの個性(歌謡部分)を混ぜて取り入れるあたりに、スピッツの音楽センスがうかがえます。

一曲目から名曲「ウサギのバイク」で出発、「魔女旅に出る」でノスタルジックに旅立つ38分。そのアルバム構成にスキはありません。どこまでが言葉遊びなのかマジなのか真意をうまく掴めない歌詞に、グルーヴの乗ったバックサウンド。速弾きすらユーモラスなそのポップ性。時折ちらつく切なげな情景…。まさにスピッツワールド、古今東西唯一無二の一枚です。洋楽からもこんなアルバムは今後も出てこないでしょう。

曲では「ウサギのバイク」と「プール」が死ぬほど好きです。どちらもブレイク以降のスピッツの音楽に通じる「淡さ」「綺麗さ」「危うさ」みたいなものを存分に聴かせる名曲だと思います。「プール」はまさにシューゲイザーを通過したサウンドをしているので、この曲が好きな方はRide- Dreams burn downこうした曲も如何でしょう。
試聴はこちらから(ウサギのバイク)


惑星のかけら惑星のかけら
(2002/10/16)
スピッツ

ヒットしそうなジャケではない
01. 惑星のかけら (5:25) 06. シュラフ (5:43) 11. リコシェ号 (2:56)
02. ハニーハニー (4:40) 07. 白い炎 (4:59)  
03. 僕の天使マリ (3:08) 08. 波のり (3:04)  
04. オーバードライブ (3:37) 09. 日なたの窓に憧れて (6:10)  
05. アパート (3:13) 10. ローランダー、空へ (4:36) 収録時間 47分36秒
 

92年作。3rd。総評・★★★
王道には至れないスピッツのロック魂を思う

ミニアルバム「オーロラになれなかった人のために」(感想は今度にしますね)で試された、「オーケストラアレンジ」の反動から、スピッツ史上で最もハードなロック作となったのが、今作「惑星のかけら」。今作の音楽性はNirvanaが『Nevermind』で爆発させた、90年代前半のUSロックのムーブメント「グランジ」が色濃く反映された内容となっています。グランジを非常にザックリ説明すると、「負け犬の開き直り革命」になります(超言葉足らず)。パンク的な反抗心を持った、ダウナーを力に変えたような攻撃的な音楽だったんですね。(くわしくはこちらのサイトさんを!→グランジ・オルタナの流行)

しかしその攻撃的なグランジをウィッと飲み込めるほど、スピッツはシリアスでエネルギッシュなバンドではありません。人気曲ですが、「惑星のかけら」や「オーバードライブ」などのヘビーサウンドと、草野マサムネ氏の声質の組み合わせも正直首を傾げるところがあります。今作はそうした、「目指すロックとの違和感」が結構出ている気がするので、個人的にはあまり好きな作品ではありません。

ですが同時に、「その違和感の部分こそスピッツ」なんだなとも思うのです。「目指す音楽がある。でも声もふつうのロックバンドとは真逆だし、そこまでバンドとしてシリアスにはなれない(←地味にここが重要)。でも好きだから自己流でやっちゃう」。渋谷系後のバンドらしい、ある意味ミーハー的なそのスタンス。その憎めなさ、独特の消化の仕方がスピッツかなと。ともかく個人的に今作は、正統派ロックと自身の個性のせめぎあい、その怖いもの知らず感、やりたいことやってる感が魅力だと思ってます。しかしてスピッツは紆余曲折を経て、晴れて自分たちのロックにたどり着くわけですが、それは中期以降の記事にて…。

曲ではザ・スピッツでありザ・スミスな美しい小曲「アパート」、不思議な「シュラフ」、すっとぼけた「波乗り」、荘厳な「ローランダー、空へ」、音が眩しい「リコシェ号」あたりが好きです。前作の空間使いを活かした曲作りは、バンドにとっても収穫だったようです。
試聴はこちらから(惑星のかけら)



ここまでが個人的に初期です。デビューから2年で4作というこの溢れんばかりの創作意欲は、当時の彼らの才能爆発っぷりがうかがえます。その勢いとは真逆に、作品はオリコンチャートに未だランクインすらできず、アルバムを発売する度にその売上も下がり続けたワケですが…。売上不振、それでも支えてくれる周囲の人たち。そうした逆境が、ついに彼らを「ポップフィールド」に旅立たせることとなります。ライナーノーツで小野島 大さんがいうところの、「周囲の思惑や状況など関係なく自らの信じる音楽をやっていればよかった時期」は終わるのです。

続きは中期にて。
     

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コメント

No title

サム様 こんにちは

自分はセカンドまでを初期と捉えていましたが、
なるほど、サードまでが初期ですか。
やっぱり高橋信彦との共同プロデュースというカラーもあるのかも、ですね。
(それだとオーロラになれなかった人のためにも入っちゃいますか)

弟に借りて聴いていましたが
この頃の曲は覚えているものが多いです。
夏の魔物 が一番好き。

Re: No title

GAOHEWGII こんにちわー

個人的にはサードまでが初期ですね、4枚目から、洋楽よりからJ-POPに寄り添う気がします…
プロデューサーというものの影響を意識したのも、自分はスピッツが最初なので思いで深いです。

夏の魔物、良いですよね。この前の武道館ライブで聴けて感動しました。

> サム様 こんにちは
>
> 自分はセカンドまでを初期と捉えていましたが、
> なるほど、サードまでが初期ですか。
> やっぱり高橋信彦との共同プロデュースというカラーもあるのかも、ですね。
> (それだとオーロラになれなかった人のためにも入っちゃいますか)
>
> 弟に借りて聴いていましたが
> この頃の曲は覚えているものが多いです。
> 夏の魔物 が一番好き。

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プロフィール

サム

Author:サム
旧「一人音楽座談会」。
音楽に限らず、作品やアーティストに対する検索結果がもっと充実したらという気持ちで更新しています。「もう一回聴いてみよう」「こんなのもあるのか」が好きで、「これだけ聴けばいい」が嫌い。
背景はBOCの「Tomorrow's harvest」。Twitterは↓。

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