スピッツ全フルアルバム 感想 -初期- ~事後とRideとオルタナ

(2017/06/30 書き直し)

スピッツの全フルアルバムを、(独断で)初期・中期・後期と分けて振り返ります。インディ期は割愛。曲の色付けは赤太字(名曲)赤字(大好きな曲)太字(良曲)みたいな感じで、下線曲が作品の個人的ベストトラックです。

それでは早速。スピッツファンの方も、ちょっとどんなバンドか気になった方も、彼らの一筋縄でない25年ほどを一緒に振り返っていきましょう。

Spitz_1991.jpg 1991年
初期(1st~惑星のかけらまで)
初期は『惑星のかけら』まで。オリコンチャートとは無縁、しかし邦ロック史における評価は確固たるものという不思議な作品群です。この時期の特徴は、「洋楽」「インディ」の二言、意図を物凄くはしょって言えば「全体重視(≠構成重視、サビを頂点にしない)」「売れ線より自分たちの音楽性(趣味)重視」ということです。『CYCLE HIT 1991-1997』で並べ聴いても、「君が思い出になる前に」(スピッツの初チャートイン曲)以前、以降では意識が違う。

邦楽ポップスマナーに則らない曲作り(日本はドラマタイアップ全盛期)はホントに自由で、言葉を借りるならトガってました。洋楽への露骨なリスペクト、しかしメロディの譜割は日本語仕込み。甘いマスクから、全てが美言にも下ネタにも感じられる詩を放つ(今のストレート多くなった正宗も良いですが、この頃の言葉の選び方、つなぎ方は異常)。まだJ-POPになる前、インディで無二なロックバンドだったスピッツの作品群を振り返ります。

注・今回の3作、自分はリマスタ盤でしか聴いたことがありません。なので感想はリマスタ盤準拠です。リマスタと旧盤の区別は品番でつきます。POCHが旧盤=ポリドール、UPCHがリマスタ盤=ユニバーサルです。初期作の新品はもうないと思います(あったらむしろ買うしかないです)が、レンタルの際は帯などを見て判断し、しっかりリマスタ盤を選びましょう。

 



スピッツスピッツ
(2002/10/16)
スピッツ

割と異質なジャケ
01. ニノウデの世界 (4:31) 06. テレビ (4:07) 11. めぼし (3:36)
02. 海とピンク (3:38) 07. タンポポ (5:09) 12. ヒバリのこころ (4:51)
03. ビー玉 (4:42) 08. 死神の岬へ (3:43)  
04. 五千光年の夢 (2:42) 09. トンビ飛べなかった (3:31)  
05. 月に帰る (4:25) 10. 夏の魔物 (3:11) 収録時間 48分17秒

91年作。1st。総評・★★★★★
スピッツサウンド即完成 正宗が捉えるものは

記念すべきメジャーデビュー作で、ローリングストーン誌選定日本のロック名盤ベスト100にて94位に選ばれています。スピッツの基本的なバンドサウンドは今もこの当時とほとんど変わっていません。ユーモラスなリズムを持ち、80sネオアコパワーポップ(今作だとドラムの響きに顕著)を下地にしたバンドサウンド。それとは反対に日本語の持ち味を活かした純邦楽・歌謡曲的なメロディライン。一枚目にしてそのスタイルが完成されているのには驚かされます。楽しいギターフレーズ目白押しで、実は三輪テツヤさんのベストワークかもしれません。

イントロからサビまで高い線で平坦な曲構成(洋楽的魅力)もですが、今作で取り上げたいのが歌詞。一曲目は耳障りよく聞き流せますが、タイトルを想像すると「あっ」、よくよく歌詞を追えば「察し」。例えばリビドーやセクシーというとR&Bが浮かぶんですが、あっちが「Come on baby...」つまり誘い文句 or 事前 or コトの最中の表現だとしたら、今作で正宗が捉えようとするのは完全に「事後」からの詩情。そしてそれに伴う少しの厭世観。それを平易な言葉の風景描写だけで映し出してしまう――当時23歳!恐れ入ります。歌詞カードの正宗の瞳がまたやばいんですよね……

楽曲だと後半の4曲が特に好きです。ところで自分は「うめぼし食べたい僕は今君に会いたい」の一節が好きで、これを「酸っぱくて顔がひきつってしまう、でも食べたくなるもの=「うめぼし」が食べたい→そんな君に会いたい」みたいな歪な愛情表現だと解釈してました。が、どうやら"うめぼし"とは女性の体の一部の隠喩らしく、ただの下ネタでした。僕らこれから強く生きていこう…。





名前をつけてやる名前をつけてやる
(2002/10/16)
スピッツ

のちの猫になりたいである(違う)
01. ウサギのバイク (3:28) 06. プール (3:52) 11. 魔女旅に出る (3:59)
02. 日曜日 (2:36) 07. 胸に咲いた黄色い花 (3:24)  
03. 名前をつけてやる (3:44) 08. 待ちあわせ (2:58)  
04. 鈴虫を飼う (4:48) 09. あわ (4:31)  
05. ミーコとギター (2:46) 10. 恋のうた (2:40) 収録時間 38分54秒

91年作。2nd。総評・★★★★★ 
シューゲイザーの詩情に寄せて

前作からわずか8カ月でリリースされ、スヌーザーの「邦楽名盤ランキング150」で22位に選ばれるなど、最高傑作を謳われる名作ですね。音楽性は前作から地続きですが、メンバーが評した「ライド(Ride)歌謡」なる言葉について触れておきたいのが当時のUKロックのムーブメント「シューゲイザー」。大雑把に言うと「霞がかったギターノイズを主題とした音楽ジャンル」で、この流れにあるのが初期の大名曲「プール」です。黎明期だった91年にリアルタイムでその感覚を自分たちの個性(歌謡部分)を混ぜて取り入れる音楽センス、この耳の早さは渋谷系の名残なのかも。

で、シューゲイザーには御三家と呼ばれる存在がいまして、キャラ付けと共に紹介すると、"求道者"「My Bloody Valentine」、"耽美派"「Slowdive」ときて、最後が「Ride」です。彼らは多くのUKバンドがそうであるように、ある種の"蒼さ"、儚さを携えたバンドでした。代表曲のひとつである「Vapour Trail」ではこんな風に歌われます。

「僕に与えられた時間は君にすべて捧げたいのに  いつも時間が足りないんだ、二人が愛を示し合うには」
(no) non-sense: 【和訳】Vapour Trail / Ride

事後や厭世感を表現した前作と異なり、「Ride歌謡」と名付けた今作は「二人でどこかに行こうとする」、そして「それは叶わなかった」という歌詞が大部分を占めている――今作はそんな現実を受け止めてなお「恋のうた」に辿り着き、そんな相手を"魔女"と名付け、あくまで"旅に出る"という言葉で送り出す所に名盤たる所以がある訳ですが――ここにあるのもそう、初期Rideと同じ蒼さ、儚さ、ロマンチシズム。音楽性もそうですが、正宗氏が一番影響を受けたのは、Rideの詩作だったのかもしれません。

こう書いていくと未聴の方は「もの悲しい作品」を想像しそうですが、どっこいそのサウンドは超明るくてポップなんです。まさにスピッツワールド、古今東西唯一無二の一枚です。



※ちなみに2017年現在、御三家まさかの全員帰還などでシューゲイザーは再熱しております。「新月」などスピッツからもそう遠くない音楽です。覗いてみると楽しいかと!
レジェンド復活で話題! シューゲイザーバンド特集 | | moraトピックス




惑星のかけら惑星のかけら
(2002/10/16)
スピッツ

ヒットしそうなジャケではない
01. 惑星のかけら (5:25) 06. シュラフ (5:43) 11. リコシェ号 (2:56)
02. ハニーハニー (4:40) 07. 白い炎 (4:59)  
03. 僕の天使マリ (3:08) 08. 波のり (3:04)  
04. オーバードライブ (3:37) 09. 日なたの窓に憧れて (6:10)  
05. アパート (3:13) 10. ローランダー、空へ (4:36) 収録時間 47分36秒
 

92年作。3rd。総評・★★★
ホンモノにはなれない彼らは「オルタナ」が似合う

小作『オーロラになれなかった人のために』(感想は今度)で試されたオーケストラアレンジの反動から、3rdはスピッツ史上最もハードなロック作となりました。参照したのは、Nirvanaが19991年末に『Nevermind』で爆発させた90年代最大のロック・ムーブメント「グランジ」。良い意味でミーハー、相変わらずフィードバックがクソ早いですね。グランジを非常にザックリ説明すると、「負け犬の開き直り革命」です(超言葉足らず)。ハードコア、パンク、アングラを通過し、反抗心とダウナーを力に変えたような音楽でした。(くわしくはこちらのサイトさんを!→グランジ・オルタナの流行)

しかしその攻撃性をウィッと飲み込めるほど、スピッツはシリアスでエネルギッシュなバンドではありません。そもそもこの手の歪と正宗の声の相性に首を傾ける所もあり、個人的にはあまり好きな作品ではなかったり。ですが同時に、「その違和感=スピッツ」とは思うのです。ブルーハーツに憧れた結果「ニノウデの世界」に辿り着いてしまった1stよろしく、明らかにキャラと違うグランジに乗っかろうとした今作といい、彼らは理想像とするロックに辿り着くにはヤワで声も王道でなさすぎる。しかしそれでも挑む。だから、ホンモノではないけどユニークにはなるんですよね。そんなスピッツが似合うのは、同じくグランジの語句と共に普及した――「他とは少し違うもの」の意、「オルタナティヴ」でしょう。その結実が2000年代前後にある訳ですが、それはこの先の記事にて。

曲ではザ・スピッツでありザ・スミスな美しい小曲「アパート」、荘厳な「ローランダー、空へ」、音が眩しい「リコシェ号」、初期シングルで一番ポップな「日向の窓に憧れて」が好きです。改めて聴くとかなり実験作ですよね。




ここまでが個人的に初期です。デビューから2年で4作というこの溢れんばかりの創作意欲は、当時の彼らの才能爆発っぷりがうかがえます。その勢いとは真逆に、作品はオリコンチャートに未だランクインすらできず、アルバムを発売する度にその売上も下がり続けたワケですが…。売上不振、それでも支えてくれる周囲の人たち。そうした逆境が、ついに彼らを「ポップフィールド」に旅立たせることとなります。小野島 大さんがいうところの、「周囲の思惑や状況など関係なく自らの信じる音楽をやっていればよかった時期」は終わるのです。

続きは中期にて。
     

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コメント

No title

サム様 こんにちは

自分はセカンドまでを初期と捉えていましたが、
なるほど、サードまでが初期ですか。
やっぱり高橋信彦との共同プロデュースというカラーもあるのかも、ですね。
(それだとオーロラになれなかった人のためにも入っちゃいますか)

弟に借りて聴いていましたが
この頃の曲は覚えているものが多いです。
夏の魔物 が一番好き。

Re: No title

GAOHEWGII こんにちわー

個人的にはサードまでが初期ですね、4枚目から、洋楽よりからJ-POPに寄り添う気がします…
プロデューサーというものの影響を意識したのも、自分はスピッツが最初なので思いで深いです。

夏の魔物、良いですよね。この前の武道館ライブで聴けて感動しました。

> サム様 こんにちは
>
> 自分はセカンドまでを初期と捉えていましたが、
> なるほど、サードまでが初期ですか。
> やっぱり高橋信彦との共同プロデュースというカラーもあるのかも、ですね。
> (それだとオーロラになれなかった人のためにも入っちゃいますか)
>
> 弟に借りて聴いていましたが
> この頃の曲は覚えているものが多いです。
> 夏の魔物 が一番好き。

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Author:サム
旧一人音楽座談会。
「もう一回聴いてみよう」「こんなのもあるのか」が好きで、「これだけ聴けばいい」が嫌い。普段はTwitter↓にいます。

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