スピッツ 全フルアルバム感想 -中期①-

スピッツの全フルアルバムを、(独断で)初期・中期・後期と分けて振り返ります。
初期についてはこちらからどうぞ。
曲の色付けは赤太字(名曲)赤字(大好きな曲)太字(良曲)みたいな感じで、下線曲が作品の個人的ベストトラックです。
SPITZ_1994.jpg 1995年


中期①
中期①は初のオリコンランクイン作を生んだ『Crispy!』から『インディゴ地平線』までとします。笹路正徳さんが関わった時期で、売れ線への転換・挫折・そして大ブレイクといった期間ですね。前回取り上げた初期では「洋楽」「インディ」をキーワードとしましたが、中期①のキーワードは「J-POP」でしょう。つまり、曲におけるメロディの地位が高い。その違いは、シングルコレクション「CYCLE HIT 1991-1997」の、「裸のままで」以前と「君が思い出になる前に」以降を聴き比べると明白です。「良い音楽を作るが売れないバンド」から「トップバンド」へ…その変化の軌跡を追います。

注・今回の4作、自分はリマスタ盤でなく旧盤しか聴いたことがありません。なので感想は旧盤準拠です。リマスタと旧盤の区別は品番でつきます。POCHが旧盤=ポリドール、UPCHがリマスタ盤=ユニバーサルです。帯などを見て判断し、リマスタ盤を手に入れましょう。


 

Crispy!Crispy!
(2002/10/16)
スピッツ

メイク草野さんオッス
01. クリスピー (3:05) 05. ドルフィン・ラヴ (4:06) 09. 多摩川 (3:28)
02. 夏が終わる (4:09) 06. 夢じゃない (4:27) 10. 黒い翼 (5:19)
03. 裸のままで (4:45) 07. 君だけを (5:26)  
04. 君が思い出になる前に (5:03) 08. タイムトラベラー (4:04) 収録時間 44分10秒

93年作。4th。総評・★★★★
笹路正徳登場、J-POPに舵をきったスピッツ

前作までの3作が、その完成度と裏腹に完全にチャートから黙殺されたのをうけ、「プロとして結果を出さねば」と初の外部プロデューサー笹路正徳を招いて制作された、勝負作の4枚目が「Crispy!」(初期三作に関わった高橋信彦は事務所が同じ=内部扱い)。歌詞を見ても、「どんなに遠く離れていたって君を見つめてる」「君が思い出になる前にもう一度笑って見せて」など、草野さんが売れ線を意識しだしたのがわかります。

今作、正直ファン人気は微妙です。よく指摘されるのが笹路正徳氏のオーバープロデュース。シンセやホーンが鳴り響くそのサウンドが「明るすぎる」「無理してる」「時代を感じる」と不評で…。確かに同意ですが、「じゃあ曲が悪いのか」というとそんな事はなく、これが捨て曲なしの力作なのです。かわいらしく弾けた「クリスピー」、キュートな「裸のままで」、初の直球にして力強い「君だけを」、軽快な「タイムトラベラー」など聴きどころは多い。スピッツ史の中では迷盤かもしれませんが、佳作以上の作品と自分は位置付けたいです。

ここでスピッツは音楽性を洋楽志向からJ-POP志向に切り替えたと思います。つまり、曲におけるボーカルメロディの比重を一気に高めた。笹路さんのアレンジも、過剰すぎたとはいえしっかりグッドメロディを活かしています。それが最も顕著なのが、個人的ベストトラック「君が思い出になる前に」。リフを用いず歌の背景となるギター、和音進行を安定させるシンプルな8部ベース、歌に寄り添ったピアノといい、必ず何か捻りを加えていた初期路線では間違いなく生まれえなかった名曲です。



しかしこの音楽性の変化は相当な葛藤と覚悟がにじむもので、それは歌詞にも表れています。「汚れない獣には戻れない世界でも」(夢じゃない)、「焦げた市街地をさまよう僕にサヨナラ 重いドアを無理やりこじ開けたなら」(黒い翼)と、何かを捨てて何かを手に入れようとした、そんな決意が見られる。しかしこのアルバム、93年当時の最高順位は、覚悟の路線変更にも関わらずまさかの4作連続100位圏外。マサムネも大層落ち込んだそうですが、シングルカットされた「君が思い出になる前に」がスピッツ初のチャートランクイン(33位)を果たしたことで、次への視界は開けたのでした。そしてこの、今から考えれば本当に小さな成功が、のちの大ブレイクへの第一歩となるのですね。
ちなみに今作はブレイク後の97年に最高順位を27位に更新、累計も10万ほどを売り上げ、めでたく再評価されました。よかったよかった。



空の飛び方空の飛び方
(2002/10/16)
スピッツ

割かし好きなジャケです
01. たまご (3:26) 06. 不死身のビーナス (3:21) 11. サンシャイン (5:24)
02. スパイダー (3:44) 07. ラズベリー (4:38)  
03. 空も飛べるはず (4:30) 08. ヘチマの花 (3:03)  
04. 迷子の兵隊 (4:27) 09. ベビーフェイス (4:11)  
05. 恋は夕暮れ (4:58) 10. 青い車 (AL Ver) (4:39) 収録時間 46分47秒
 

94年作。5th。総評・★★★★
ポップフィールドの中で「王道サウンド」を獲得
 
苦難の末、なんとかシングルでオリコン初登場を達成したスピッツ。次の「空も飛べるはず」も初登場28位を記録(大ヒットになるのは2年後)、続く「青い車」も27位と、音楽活動が安定しだしたころの作品が今作『空の飛び方』。アルバムは、躍進のオリコン初登場14位を記録。進む道は間違っていなかったのです。

内容は前作の行きすぎから立ち戻って、適度にバンドしてて適度に聴きやすくてと、ここで「王道のスピッツサウンド」が確立されたように思います。シングル楽曲も、エバーグリーンなイントロを持つ名曲「空も飛べるはず」、クリーントーンのアルペジオというスピッツ黄金律の萌芽「青い車」(この二曲以外が笹路正徳プロデュースで制作)、爽快すぎるストーカーラブソング「スパイダー」、と、どれも今も王道と呼べる人気曲ですね。 

アルバム曲では、ベースがイカす「迷子の兵隊」に、「恋は昨日よりも美しい夕暮れ 恋は届かない悲しきテレパシー 恋は待ちきれず咲き急ぐ桜 恋は焼きついて離れない瞳」という名詩(断言)をもつ「恋は夕暮れ」、初期を思い出す「不死身のビーナス」あたりが好きです。しかし個人的に今作のベストトラックは何とも言えず感傷的な「サンシャイン。イントロ、メロ裏のキーボード、裏声響くアウトロまで大好きな一曲で、隠れた名曲だと思ってます。「すりガラスの窓をあけた時によみがえる埃の粒たちを動かずに見ていたい」なんて、一体どんな思考回路から思いつくのか……。無常観、諦観、当時27歳にして、この何かを極めてしまっているような視点には畏怖すら覚えます。そう、音楽性が変わっても、このひとの詩情は一切ブレなかったんですよ。実はスピッツで一番すごいのはそこかもしれません。

ちなみに今作からジャケットデザインが木村豊さんで統一されました。見ると、確かに今作以前と以降ではジャケの感覚が違う…かな?そういう意味でも今に至る「メジャーバンドとしてのスピッツの第二出発点作」といえるのでは。




ハチミツハチミツ
(2002/10/16)
スピッツ

その素顔は初回限定盤に
01. ハチミツ – 3:05 06. トンガリ'95 – 3:04 11. 君と暮らせたら – 3:16
02. 涙がキラリ☆ – 3:58 07. あじさい通り – 5:12  
03. 歩き出せ、クローバー – 4:25 08. ロビンソン – 4:20  
04. ルナルナ – 3:39 09. Y – 4:23  
05. 愛のことば – 4:21 10. グラスホッパー – 3:28 収録時間 43分22秒
 

95年作。6th。総評・★★★★☆
大ブレイクでもスピッツは風呂敷を広げない

前作で自信をつけたスピッツ。苦節というか、彼らはついに大ブレイクを果たします。シングル「ロビンソン」のリリースです。初のオリコントップ10入り(最高位は4位)から、延々とロングセラーを続け、累計160万超シングル年間9位!)の特大ヒット。続く「涙がキラリ☆」も100万枚近い累計を記録。倍プッシュよろしくではすまない人気の爆発、ここからスピッツの(売上的)黄金期が始まるのです。そんなブレイクスルー作が「ハチミツ」。その累計は170万にもなりました。

正直、「ここで100万という規模までブレイクしなかったらどうなってたんだろう?」とよく考えます。今作から今に至るまで、事務所的にも邦楽シーン的にもトップアーティストとして活動を続けている訳ですが、その重荷・制約はやはりあるはず。初期のように、自由気ままにやっていたらどうなってたのかな…と想像しちゃうわけです。しかしてスピッツはポップフィールドで戦うことを選択し、その選択が実を結んでブレイクにたどり着いたわけで。感慨深くもあり、もうそこには戻れないことに思いを馳せたりするのでした。

話を作品に戻しましょう。「スピッツのアルバムで何が一番好き?」というのは非常に難しい問いですが、今作を選ぶという人は多いのではないでしょうか。大ヒット曲が収録されてるほか、アルバム曲も粒揃いです。不思議な力強さがある「歩きだせ、クローバ-」、ドラマ主題歌化も決まった切ない「愛のことば」、ライブチューン「トンガリ'95」、その声が胸を打つ「Y」など流石ブレイクしただけある充実具合。『Crispy!』のころと比べても、明らかに音に確信が宿っており、曲の芯がとても強い。そのうえで軽やかで勢いがあって…まさに「快作」といった内容です。

にしても、ブレイクしたというのに全編とおしての飾り気のなさは実に「らしい」ですね。いきなり歌詞が分かりやすくなるでもなく、音楽性が大ヒットを意識するものに変わるでもなく。不器用なまでにスケールを広げない…。この辺、同時代のMr. Childrenの大ブレイク作にして異色作、『Atomic Heart』などと比較したくなります。ところで、94~95年といえば英国でblurとoasisを中心とした「ブリットポップ」という大ムーブメントが起きています。初期ならさりげなくフィードバックさせそうなものですが、前作も今作もその影響がまるでないことに、ブレとは違う、スタンスの変化を感じて寂しさを覚えたり…ともかくも、捨て曲なし、疑いようなき代表作です。シングル曲の魅力など語りすぎちゃいそうなので、この辺で。
音楽番組とかのランキングでこの曲流れたときの明らかな異質感ほんとすき



インディゴ地平線インディゴ地平線
(2002/10/16)
スピッツ

若干地味なジャケ
01. 花泥棒 (1:50) 06. ナナへの気持ち (3:42) 11. 夕陽が笑う、君も笑う (3:27)
02. 初恋クレイジー (4:09) 07. 虹を越えて (4:13) 12. チェリー (4.19)
03. インディゴ地平線 (4:20) 08. バニーガール (3:49)  
04. (4:47) 09. ほうき星 (4:11)  
05. ハヤテ (3:15) 10. マフラーマン (3:37) 収録時間 45分47秒

96年作。7th。総評・★★★★
重圧の中作られたのは、THE J-POPな好盤

96年はまさにスピッツの年でした。まずは1月にドラマ「白線流し」がスタート、主題歌「空も飛べるはず」がリバイバル大ヒットで150万に迫る売上を記録。4月にはカラオケ人気も未だ根強い代表曲「チェリ-」が160万超の大ヒット、9月リリース「渚」でシングル初登場1位累計80万弱の売上を記録、そのままの勢いで10月に今作「インディゴ地平線」を発売し135万ほどを売り上げるミリオンヒットに…と、簡単に羅列するだけでも恐ろしいほどの活躍ぶりだったのです。

持論として、最も「初期」と正反対の位置にあるのがこのアルバムだと思っています。今回の4作すべてに言えることですが、(初期の趣味的な)洋楽からの影響がどんどん薄れている。勿論それが悪いというわけではなく、「変化が起きていた」、ということです。その始発点『Crispy!』で述べた、「ボーカルメロディの比重」が最も高い…つまりスピッツの中で最もJ-POPらしい作品が今作かと。一曲目の花泥棒はともかく、他すべての曲に見事なまでのJ-POP的良曲感、ひたすらメロディにスポットライトをあてたグッドソングが溢れている。2年ほどで、気づけば常にビッグセールスを期待されるほど大きな存在になっていたスピッツ。その重圧の中で作られたのがこのアルバムかと思うと、また聴き方が変わってくるかと思います。

内容はコンパクトポップチューンがズラリ。どれも草野さんのハイトーンクリーンボイスが映えたメロディラインで非常に気持ちいいです。また、音がモコモコとアナログ感、セピアな感じに包まれているのも本作の特徴ですね。割と不評みたいですが、自分は結構好きです。ベストトラックは、単純故究極みたいな「。ブレイク後はストレートな言葉も増やしてきたマサムネさんですが、「柔らかい日々が波の音に染まる」なんて唸る。全編非常にキャッチーで、ロックファン的には音の弱さに躊躇がありつつも、コレを初めてのスピッツとして勧めるのもアリかと。
そしてスピッツは、ある意味「行き過ぎた」この作品を明確なカウンター対象とすることで次の一手を放つのでした。




お疲れ様です。毎度長くてすみません…。今回は売れ線を目指し、ついにブレイクを果たしたスピッツの軌跡を追いました。Crispy!までの世間からの冷たい風、そこからの大跳躍はいつ見てもしみじみします。このブレイク後から現在に至るまでは、シングルカットの「流れ星」を除けば全作品がオリコントップ10に入っているわけで、10連敗のち何十連勝して街が光るというかなんというか…良かったなぁと。今では想像できない、「一年にアルバム一作ペース」も驚異的ですね。しかしそんなスピッツも足を止めて周りを見渡す時期が来ました。次回は、その「セールス的絶頂期の中で、ロックバンドとしてどうするのか?」を問うようなあの2作品に触れたいと思います。

続きは中期②にて。
     

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コメント

No title

サム様 こんにちは

この頃のアルバムは、曲が日常で流れてくるだけに
きちんと聴く機会があんまり無い感じ。
この機会にもう一度聴いてみようと思います。

インディゴ地平線はブックオフの在庫量でもトップでしょうね。

Re: No title

曲が日常で流れていると、逆にとっつきたくなくなるっていうの、分かります。
よくないなーとは思いつつ、何か気分が乗らないんだなぁ…


インディゴ地平線とハチミツはブックオフ不動のレギュラーですね苦笑
決して内容が悪いわけじゃないので、もしよければ在庫をひとつ減らしてあげてください笑

> サム様 こんにちは
>
> この頃のアルバムは、曲が日常で流れてくるだけに
> きちんと聴く機会があんまり無い感じ。
> この機会にもう一度聴いてみようと思います。
>
> インディゴ地平線はブックオフの在庫量でもトップでしょうね。

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Author:サム
旧「一人音楽座談会」。
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背景はBOCの「Tomorrow's harvest」。Twitterは↓。

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