スピッツ全フルアルバム感想 -中期①前半- ~J-POPへ、青い車と00sインディ

(2017/07/04 書き直し)

スピッツの全フルアルバムを、(独断で)初期・中期・後期と分けて振り返ります。
初期についてはこちらからどうぞ。
曲の色付けは赤太字(名曲)赤字(大好きな曲)太字(良曲)みたいな感じで、下線曲が作品の個人的ベストトラックです。
SPITZ_Spider-min.jpg 1994年


中期①前半
中期①は初のオリコンランクイン作を生んだ『Crispy!』から『インディゴ地平線』までです(この記事では『Crispy!』と『空の飛び方』のふたつ)。笹路正徳さんが関わった時期で、売れ線への転換・挫折・そして大ブレイクといった期間ですね。前回取り上げた初期では「洋楽」「インディ」をキーワードとしましたが、中期①のキーワードは「J-POP」。つまり、曲におけるメロディの地位が高くなっていく。歌詞はよりストレートな言葉遣いが求められる。スタンスとしても「インディ」から多くの誤解と責任を負う「メジャー」へ、今回はそんな変化の序章、ホップ・ステップ、までの二作です。

注・今回の2作、自分はリマスタ盤でなく旧盤しか聴いたことがありません。なので感想は旧盤準拠です。リマスタと旧盤の区別は品番でつきます。POCHが旧盤=ポリドール、UPCHがリマスタ盤=ユニバーサルです。帯などを見て判断し、リマスタ盤を手に入れましょう。


 


Crispy!Crispy!
(2002/10/16)
スピッツ

メイク草野さんオッス
01. クリスピー (3:05) 05. ドルフィン・ラヴ (4:06) 09. 多摩川 (3:28)
02. 夏が終わる (4:09) 06. 夢じゃない (4:27) 10. 黒い翼 (5:19)
03.裸のままで (4:45) 07. 君だけを (5:26)  
04. 君が思い出になる前に (5:03) 08. タイムトラベラー (4:04) 収録時間 44分10秒

93年作。4th。総評・★★★★
笹路正徳登場、J-POPに舵をきったスピッツ

前作までの3作がその完成度とは裏腹に完全にチャートから黙殺されたのをうけ、「プロとして結果を出さねば」と初の外部プロデューサー笹路正徳を招いて制作された勝負作(初期三作に関わった高橋信彦は事務所が同じ)。歌詞ひとつとっても、「どんなに遠く離れていたって君を見つめてる」「君が思い出になる前にもう一度笑って見せて」など、正宗がキャッチーさを意識したのが伝わります。前作は「僕のペニスケースは~」歌ってた

今作、正直ファン人気は微妙です。本作での笹路さんの狙いは大きく三つ、「過去路線を捨て(させ)ること」、「洋楽志向からJ-POPへの矯正」、そして「ボーカルの主役化」だった訳ですが、それゆえ指摘されるのがオーバープロデュース。無理をした渋谷系というか、往年のシンセやホーンに彩られ、今もディスコグラフィの中で浮き気味な今作が不評なのは分かります。しかし「曲が悪いのか」というとそんな事はなく、これが捨て曲なしの力作なんです。シングル曲は勿論のこと、「君だけを」や「タイムトラベラー」など聴きどころは多い。アレンジこそ試行錯誤の迷盤かもしれませんが、佳作以上と自分は位置付けたい。


この音楽性の変化は相当な葛藤と覚悟がにじむものでした。歌詞を引っ張ると……

汚れない獣には戻れない世界でも」(夢じゃない)
焦げた市街地をさまよう僕にサヨナラ 重いドアを無理やりこじ開けたなら」(黒い翼)

何かを捨てて何かを手に入れようとした、そんな決意が見られる。しかしこのアルバム、93年当時の最高順位はまさかの4作連続100位圏外。正宗も大層落ち込んだそうですが、アルバム発売後にシングルカットされた「君が思い出になる前に」が一筋の光となりました。


笹路さんの志向が最も顕著でドンピシャだった、スピッツのキャリア最重要曲のひとつですね。今でこそクラシックですが、初期3枚の流れで聴くと演奏陣の引き(≠弾き)っぷりに衝撃をうけます。リフを用いず歌の背景となるギター、裏方に徹したリズム隊(一切ハネない田村さんのベースライン……)。さらにはサビ前ブリッジの盛り上げ、タイトルと連動したサビ出だし。ひねた初期からは絶対生まれなかっただろう、J-POPマナーでスタンダードな……しかし間違いない名曲この新路線がスピッツ初のチャートイン(33位)を果たしたことで、彼らの視界は開けたのでした。この、今から考えれば本当に小さな成功が、のちの大ブレイクへの第一歩となるのですね。

※ちなみに今作はブレイク後の97年に最高順位を27位に更新、累計も10万ほどを売り上げ、めでたく再評価されました。よかったよかった。




空の飛び方空の飛び方
(2002/10/16)
スピッツ

木村豊さん登場
01. たまご (3:26) 06. 不死身のビーナス (3:21) 11. サンシャイン (5:24)
02. スパイダー (3:44) 07. ラズベリー (4:38)  
03. 空も飛べるはず (4:30) 08. ヘチマの花 (3:03)  
04. 迷子の兵隊 (4:27) 09. ベビーフェイス (4:11)  
05. 恋は夕暮れ (4:58) 10. 青い車 (AL Ver) (4:39) 収録時間 46分47秒
 

94年作。5th。総評・★★★★
スピッツ第二章のはじまり
 
苦難の末、なんとか"オリコンチャートイン"を果たしたスピッツ。その成功を踏襲し、次の「空も飛べるはず」は初登場28位を記録(大ヒットは2年後)、続く「青い車」も27位、アルバムは躍進のオリコン初登場14位を記録と、進む道は間違っていなかった訳ですね。自信をつけたことで、アレンジもアコースティックギターの比重を高めつつ、バンドサウンドに立ち戻り。ここでパブリックイメージとなる「王道のスピッツサウンド」が確立されたように思います。この世で一番気持ちのいいストーカーラブソング「スパイダー」、三大ミリオン曲のひとつで色あせないイントロをもった「空も飛べるはず」など、シングル楽曲三つも大人気曲です。 


今回は「青い車」から話を広げたくて、このあたりの曲を聴くと、スピッツは00年代の邦洋インディバンドにも線がつなげるバンドだよなって思います。同年代だとエレキブランのこの曲とかになるんですが、時を遡って2000年代……80sライクなギターポップ感に歪を踏んだ疾走感、その風速に乗せて、刹那的な高揚あるいは焦燥感を映した歌詞。これがグランジの死の先に一部00sインディ勢が見た楽曲フォーマットでした。例を挙げると、邦ロックシーンでは「Syrup 16g」や「Art-school」(中期)、洋インディにて「The Pains of Being Pure at Heart」あたり(ここをさらに進めていくとインディ・ポップへ)。

バンドによってキラキラしていたりザラザラしていたりとその解像度は様々ながら、彼らは(初期スピッツの項でも取り上げた)「シューゲイザー」「オルタナ」を通過し、それぞれの心象風景を鳴らそうとしました。「青い車」はリリースこそ1994年ですが、リリースが10年遅れても違和感ない、むしろゼロ年代のインディバンドらと並べて聴きたい名曲です。U2にもなれそうなイントロから輪廻の果てに飛び降りようとするまで完璧。参照元の80~90sは、スピッツ世代からすれば原風景、後進の世代からは憧憬となる年代。そんな両者が共振しあうのには感じ入ります。



話を戻して。名詩をもつ「恋は夕暮れ」、初期を思い出す「不死身のビーナス」あたりも好きですが、個人的なベストトラックは「サンシャイン。イントロ、メロ裏のキーボード、裏声響くアウトロまでため息がでる、隠れた名曲だと思ってます。何よりこの一節ですよ。

すりガラスの窓をあけた時によみがえる埃の粒たちを動かずに見ていたい

一体どんな思考回路から思いつくのか。無常観、諦観、当時27歳にして、この何かを極めてしまっているような視点には畏怖すら覚えます。そう、音楽性が変わっても、このひとの詩的センスは一切ブレなかったんです。スピッツで一番すごいのは実はそこかもしれません(まぁ今でこそね、親父ギャグみたいなのもたまにあるけど)

ちなみに今作からジャケットデザインが木村豊さんで統一されました。見ると、確かに今作以前と以降ではジャケの感覚が違う……かな?そういう意味でも今に至る「メジャーバンドとしてのスピッツの第二出発点作」といえるのでは。



今回はここまで。さてさて、いよいよ大跳躍の始まりです。次回はあの邦ロック史上、そしてJ-POP史上の中でも特異な響きを持ってたたずみ続けているあの名曲がリリースとなります。新しい季節は……

続きは中期①後半にて。
     

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コメント

No title

サム様 こんにちは

この頃のアルバムは、曲が日常で流れてくるだけに
きちんと聴く機会があんまり無い感じ。
この機会にもう一度聴いてみようと思います。

インディゴ地平線はブックオフの在庫量でもトップでしょうね。

Re: No title

曲が日常で流れていると、逆にとっつきたくなくなるっていうの、分かります。
よくないなーとは思いつつ、何か気分が乗らないんだなぁ…


インディゴ地平線とハチミツはブックオフ不動のレギュラーですね苦笑
決して内容が悪いわけじゃないので、もしよければ在庫をひとつ減らしてあげてください笑

> サム様 こんにちは
>
> この頃のアルバムは、曲が日常で流れてくるだけに
> きちんと聴く機会があんまり無い感じ。
> この機会にもう一度聴いてみようと思います。
>
> インディゴ地平線はブックオフの在庫量でもトップでしょうね。

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旧一人音楽座談会。
「もう一回聴いてみよう」「こんなのもあるのか」が好きで、「これだけ聴けばいい」が嫌い。普段はTwitter↓にいます。

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