スピッツ 全フルアルバム感想 -中期②-

スピッツの全フルアルバムを、(独断で)初期・中期・後期と分けて振り返ります。
中期①後半についてはこちらからどうぞ。
曲の色付けは赤太字(名曲)赤字(大好きな曲)太字(良曲)みたいな感じで、下線曲が作品の個人的ベストトラックです。
SPITZ_1998.jpg 2000年



中期②
中期②は『フェイクファー』『ハヤブサ』『三日月ロック』<です。前回で100位圏外常連バンドから100万枚常連バンドにまで大跳躍したスピッツですが、それ故に「売れたロックバンドの宿命」、このまま大衆の求めるバンドイメージに殉ずるのか?己の音楽性に殉ずるのか?に苛まれることとなりました。そんな時期が中期②です。キーワードをあげるなら、一言「ロックバンド」。スピッツ史にとっても重要で、作品としても秀逸な3枚を紹介します。

注・フェイクファーですが、自分はリマスタ盤でしか聴いたことがありません。なので感想はリマスタ盤準拠です。リマスタと旧盤の区別は品番でつきます。POCHが旧盤=ポリドール、UPCHがリマスタ盤=ユニバーサルです。購入orレンタルの際は帯などを見て判断し、リマスタ盤を手にしましょう。


フェイクファーフェイクファー
(2002/10/16)
スピッツ

名ジャケすぎんよ

01. エトランゼ (1:29) 06. (5:24) 11. スカーレット (AL Mix) (3:33)
02. センチメンタル (3:28) 07. スーパーノヴァ (3:43) 12. フェイクファー (3:24)
03. 冷たい頬 (4:04) 08. ただ春を待つ (3:42)  
04. 運命の人 (AL Ver) (5:11) 09. 謝々! (5:21)  
05. 仲良し (2:41) 10. ウィリー (4:35) 収録時間 46分44秒
98年作。8th。総評・★★★★☆
総決算、そしてロックバンドとしての再出発

96年の大活躍は前回書いたとおりですが、97年はシングル「スカーレット(当然のように初登場1位を獲得)リリースに留まりました。スピッツ、デビュー後初のアルバムリリースなし。そして98年。「売れるバンド」への路線変更、そしてその全盛期を共にした笹路正徳を離れ、ほぼセルフプロデュースで作られたのが、今作「フェイクファー」(注釈1)。並々ならぬ背景を持つだけに、内容も一筋縄ではいきません。最もJ-POP的とかいた前作「インディゴ地平線」に対し、今作は開始2曲目の「センチメンタル」から、いつ以来かというディストーションギターが猛り、重いリズム隊が曲の中心に構え、ブレイクによって出来たパブリック・イメージをぶち壊す気しかないロックサウンドが展開されます。これは間違いなく「これからのスピッツの所信表明」だった。



ここでは更に2曲をピックアップします。一つ目は「」。大人気曲で、その魅力は言わずもがな。注目したいのは、中期…笹路正徳時代の魅力を凝縮したようなこの名バラードを、彼抜きで完成させた点。「君が思い出になる前に」から連なる、前4枚で自他ともに認識した「スピッツの王道」を捨てなかったんですね。そして二つ目が表題曲にして最終曲「フェイクファー(自分がスピッツで一番好きな曲)。「恋の喜びにあふれてる」から続く、「今から箱の外へ 二人は箱の外へ 未来と別の世界見つけた そんな気がした」のラインは、最終曲としてはデビュー作で歌われた「僕らこれから強く生きていこう」以来の、未来への確かな視点があります。そこからは、歴史を帯びたスピッツだからこそ踏み出せる新しい一歩を感じるのです。

つまりこのアルバムは、バンドとして取り戻したかったもの、初期からの変化を通して得たもの、新しい一歩と…そんなマイルストーンたちが詰められた一作なのです。1曲目「エトランゼ」で歌われる光景や記憶は、ひょっとしたらデビュー当時のスピッツが見ていた、描いていたものの象徴じゃないでしょうか。そして彼らは「けがれない獣には戻れない世界」に踏み込む決意をし、今作で「箱の外」「未来と別の世界」に至った……。そんな見取り図もありかもしれません。

今作、チャート的には首位を獲得したものの、累計は70万枚、前作から半減と物足りない結果になりました。ここで一応スピッツの「売上全盛期」は終わるのですが、ここで「ハチミツ2」や「インディゴ地平線2」を出さなかったから、現在もスピッツが続いてるんだと思います。ここで草野さんも30歳を超えました



「編集盤くくり」で今度振り返るつもりですが、99年にはいわくつきの非公認ベスト「RECYCLE」と、当時のカップリング集「花鳥風月」が発売されています。「流れ星」「猫になりたい」「スピカ」「俺のすべて」「おっぱい」ほかナイスな楽曲が揃った裏ベスト的内容なので、こちらも要チェックですよ。


ハヤブサハヤブサ
(2000/07/26)
スピッツ

内容と同じく一味違うジャケ
01. (1:56) 06. Holiday (3:21) 11. メモリーズ・カスタム (3:17)
02. 放浪カモメはどこまでも (3:02) 07. 8823 (4:15) 12. 俺の赤い星 (3:49)
03. いろは (2:59) 08. 宇宙虫 (2:37) 13. ジュテーム? (3:14)
04. さらばユニヴァース (3:59) 09. ハートが帰らない (4:13) 14. アカネ (3:53)
05. 甘い手 (6:24) 10. ホタル (3:42) 収録時間 50分48秒
 

00年作。9th。総評・★★★★
スピッツは自身のロックを探し暴れだす

さて、そんなスピッツの次なる一手は……。その前に、本作に至るまでは二つのトピックがありました。ひとつは、セルフプロデュースでの「99ep」という3曲入りEP<リリース(ここからキーボードサポートメンバー、クジヒロコさんが参加)。もう一つは、後にリマスタ再発売のマスタリングエンジニアに起用される00年代スピッツの相棒スティーヴン・マーカッセンとの出会い。どちらも「自身の出す音」に照準が当てられた試みで、前作で「自分たちの道を行く」と選択したスピッツの、ロックバンドとしてもう一皮むけようという意志の表れでした。

リンク先のインタビュー記事に、「99ep」と絡めて本作への言及があります。
スピッツ『スーベニア』(AL/関西版『ぴあ』05年1月6日号)
内容を抜粋すると、どうやら99epは当時不評だったようで(魚とか名曲だけど)。それは同時期に鬼気迫るライブ熱量で活動していたナンバーガールと比較して「煮え切らなかった」と表現されています。同時に、「それを払拭できたのがハヤブサ」だと。そんな本作はどういう内容かというと、「やりたい放題」という言葉が大変よく似合う作品となりました。


新たに石田小吉をプロデューサーに迎えた楽曲群は、前作とはまた違った振り幅で激しく聴き手を揺さぶります。14曲を51分で聴かせきるその勢いとアイデアの詰め込み具合は全作中屈指の攻撃力。一気に新風を吹かせ、ノイジーな間奏からの展開が気持ちいい「」、ロックバンドとしての音のスケールを見せつけた「放浪カモメ(略)」、久々に洋楽経由のデジロック「いろは」、シリアスで映画的な新境地を見せた「甘い手」、拗らせたという言葉がピッタリのストーカーソング(デジャヴ!)Holiday」、ポリスをスピッツ流パワーポップでいなした大人気曲「8823」、当時のミクスチャーを(初期のように!)ミーハーに取り入れた怪曲「メモリーズ・カスタム」、その中にあって際立つネオアコ系美曲「ホタル」、唯一後味爽快な王道路線「アカネ」……ここまで全曲キャラ立ちしているのは今作だけでは。当時の試行錯誤、創作意欲のごった煮という感じがします。今作を最高傑作に選ぶ方が地味に多いのも頷ける。

ここで前述のベスト騒動含め、「色々ふっ切った」ことは大きかった。内容の衝撃度もあってか、最高位3位、売上は前作から更に半減(累計37万ほど)、ブレイク後最速でチャート圏外へ(=最もロングセラーしなかった)、という結果になってしまいました。90年代ブレイクしたバンドは皆00年初めに急激な売上減に襲われたのですが、その流れには逆らえず…。とはいえスピッツは解散するでもなく自分の道を進むのでした。




三日月ロック三日月ロック
(2002/09/11)
スピッツ

なんか妙に好きなジャケ
01. 夜を駆ける (5:04) 06. ローテク・ロマンティカ (3:33) 11. ガーベラ (4:20)
02. 水色の街 (3:27) 07. ハネモノ (4:48) 12. 旅の途中 (3:49)
03. さわって・変わって (3:39) 08. 海を見に行こう (2:59) 13. けもの道 (3:58)
04. ミカンズのテーマ (4:23) 09. エスカルゴ (4:01)  
05. ババロア (5:03) 10. 遥か album mix (4:22) 収録時間 53分40秒

02年作。10th。総評・★★★★★
その道程、音の説得力

前作でロックバンドとしてのモチベーションを再生させたスピッツ。本作は、今回取りあげた3作…「ロックバンドとして再出発したスピッツ」を統括するような作品となっています。ここから00年代スピッツの盟友、亀田誠治さんがプロデューサーになりました。試行錯誤が実を結び、その音のダイナミクスも聴きごたえ抜群です。その自信の表れは、ここで「過去作をリマスタリングして再リリース」したことからも伺えます。

自分、この作品が大好きですが、正直なんでこんな好きかよく分かってません。ロックなスピッツ作品全部にいえることですが、別に必殺のリフがあるわけでもないし、鬼気迫るテンションがあるわけでもない。どちらかといえば微妙にユルい。なのにどうしたことか、なんか妙に魅力的なんです(決してファン補正とかじゃなく!)。それは歌詞やメロディ、リズムといった諸々の結果だとは思いますが、その「なんか」はもう「スピッツ」としか言えない着地点なわけで、そんな場所にこのアルバムは集大成として在る。メンバーも「やりきった」と断言する一作で、作品全体に通った芯の強さは魅力の一つといえそう。



曲については、やはり「夜を駆ける」がベストトラック。何度聴いても心を打つイントロ、まさしく駆けていくドラミング、儚いメロディ・歌詞・声。スピッツの裏代表曲です。他にも秀曲が揃っています。シンプルで骨太なロックナンバー「ローテク・ロマンティカ」「エスカルゴ」、初期っぽいノリの「ミカンズのテーマ」、打ち込みの実験作「ハネモノ」、ポスト・ロック的ですらある「水色の街」、独特の浮遊感と虚無を孕んだヒットシングル「遥か」、ノスタルジックで心地よい「旅の途中」…。そしてアルバムを締める、初のどストレート応援歌「けもの道」。ここでスピッツは、初期とまた違う自由さに辿り着いています。ライブのセットリストを見ても明白ですが、「黒歴史」みたいな時期がないんですよね。デビュー10年、不遇で自由を謳歌した初期も、ブレイクと共に縛りがあった中期①も、試行錯誤の中期②も。そのすべてを踏まえていって今作がある。その音楽的、そして変遷スケールが最大の魅力に感じます。


売上について。「遥か」こそ(現時点で最後の)30万超えのヒットになりましたが、シングル売上は10万を割るようになり、当時は結構深刻な人気下落ムードがありました。しかし今作、アルバム売上はなんと上昇。最高位1位、累計も40万枚にカムバックと「スピッツのアルバム」に対する人気の根強さ、信頼感が改めて見える結果となったのでした。CDバブルを共に過ごした多くのバンドが急に失速、解散してしまう中、Mr. Childrenとスピッツは明確に2000年代の新波に第二ピークを作ったのです。またこの言葉かって感じですが、「選んだ道は間違ってなかった」。そこから歌われる「あきらめないで それは未来へ かすかに残るけもの道」の説得力たるや、ですね。代表作でしょう。



お疲れ様です!3作しか取り上げてないのに長いのなんのって…ほんとすみません。ともあれ今作は「ブレイク後、ロックバンドとして再始動したスピッツ」を追いました。次回は、「ロックバンドとして再生したスピッツのそれから、そして今」を見ていきます。次でラストです!ここまで読んでくれた方、乗りかかった船ということで、最後までよろしくお願いします。

続きは後期(現在)にて。
     

タグ: アーティスト紹介記事

コメント

No title

サム様 こんばんは

この辺りが分岐点ですね。

自分は「隼」がどうしても受け入れられず
(デジタル・サウンドがどうも・・・)
以降、しばらく新鮮な魅力を感じることが出来ず、
花鳥風月までを愛でるようになってしまいました。

実験作ということで
やりたいことをやったという本文は確かにその通り。

亀田誠治プロデュースになってからは
ややマンネリ化してきますが
三日月ロックは鮮烈でしたね。

Re: No title

GAOHEWGIIさん、こんばんわ
いつもコメントありがとうございます。
順を追ってそちらのスピッツに対するコメントが聞けて、面白いです

好意的な評価も多いですが、「ハヤブサが苦手」という人も沢山いそうですね。
スピッツとしても、この時期が一番良くも悪くもファンをふるいにかけてた気がします。
三日月ロック以降の展開も、また次回追いたいと思います。

> サム様 こんばんは
>
> この辺りが分岐点ですね。
>
> 自分は「隼」がどうしても受け入れられず
> (デジタル・サウンドがどうも・・・)
> 以降、しばらく新鮮な魅力を感じることが出来ず、
> 花鳥風月までを愛でるようになってしまいました。
>
> 実験作ということで
> やりたいことをやったという本文は確かにその通り。
>
> 亀田誠治プロデュースになってからは
> ややマンネリ化してきますが
> 三日月ロックは鮮烈でしたね。

コメントの投稿


非公開コメント

プロフィール

サム

Author:サム
旧一人音楽座談会。
「もう一回聴いてみよう」「こんなのもあるのか」が好きで、「これだけ聴けばいい」が嫌い。普段はTwitter↓にいます。

カテゴリ
Twitter
リンク
クリックで展開
NewCcounter