Damien rice / My favorite faded fantasy (2014) 全曲感想

ダミアンライスの傑作新譜を、対訳を吟味しつつ全曲見ていきます。

1. "My Favourite Faded Fantasy" 6:12
表題曲で、リード曲。アルバムはいかにも寂しげなイントロで静かに幕を開ける。歌いあげられるのはラブソングだが、主人公は「愛してるぜマジハッピー」みたいな能天気な心持ちでは全くない。今までにない新しい感情に襲われ、ひどく不安定な状態で、「もし君といれたら、一体どうなってしまうんだろう」と戸惑いながらも、躁鬱的な伴奏に導かれ、激情の中「君を愛している」と切実に歌い上げていく。この曲で自分はこのアルバムは良いかもな、と購入を決めた。見事あたりだった。スパンと断ち切る終わりまでスキのない名曲

2. "It Takes a Lot to Know a Man" 9:33
すれ違いや、分かりあうことの難しさについての歌だろうか。途中の、語りかけるボーカルが多重録音で重なっていくところが聴き所。そこで他者への問いかけを繰り返したあと、5分以降はピアノとストリングスが4分半にわたってオーケストラのような展開を見せていく。ここも映画のエンドロールのようで美しい。非常に物哀しい曲調だが、かといって絶望しているわけでもなく、複雑な感情を見事にとらえていると思う。

3. "The Greatest Bastard" 5:04
リード曲。これは割と従来のダミアン・ライス節。コーラス部分のメロディがとても綺麗だ。アコギ一本で静かに始まるが、曲は終盤にかけて感動的な盛り上がりをみせる。ちょっとウルッとくる。声の力がやはりある。普段ヘタウマボーカルを愛する自分にも素直にしみる。歌詞はちょっとした行き違いから、元に戻ろうとする歌に見える。解説では「失った愛への執着では」と書かれており、後悔のその先に行こうみたいな話かもしれない。

4. "I Don't Want to Change You" 5:26
リード曲。これも従来の曲調だろう。前曲に続いて誰にも一発で覚えられるメロディの良さがある。やはりストリングスが良い味を出している。さりげないピアノやギターアルペジオ、やたら乾いたドラムも良い。どちらかといえば大御所族なので当然と言えば当然だが、本当によく曲が拵えられている。大サビというべきか、「Water races, Water races down, Water races fall」の所で泣ける。

5. "Colour Me In" 5:18
3.4.5は大体同系統。ワンパターンといったのはここら辺の曲の盛り上げ方がちょっと被っているからだ。しかし声とストリングスが折り重なって達する所は、連続技だろうが響くものは響く。良いものは良い。ここで一つ箸やすめ的な軽快な曲があっても良かったかな?とは少し思う。

6. "The Box" 4:27
流れを同じくアコースティックな曲調で始まるが、「僕はもう吹っ切れた 僕が去っていく理由 僕が変わりたい理由 僕のあらゆる理由が君とともに失われた」から、「やってみたけどこの箱には収まりきれない」と、ここにきて別れの歌のような展開を見せる。最初は1.2曲目と似たような盛り上げ方だなと思ったが、歌詞と照らし合わすにこの曲のアウトロは、「悲壮な覚悟での旅立ち」、みたいなものなんじゃなかろうか。ヒロイック的なマイナーコードの響きはクドさも滲ませるが、そこは収録曲最短の4分おわりなのでセーフ。

7. "Trusty and True" 8:09
非常に伝統的なフォークマナーにのっとった曲。普遍的である。「過去のことは取り戻せない なら、ココから始めよう」と歌われる内容は、前曲ともし連なっているなら新しい一歩といった感じか。ものすごく短いフレーズなのだが、「Come」の言葉がとても耳から心に響く後半の、全てを受け止めるような歌詞と優しいアレンジはアルバムの中でも白眉。最後はゴスペルのように大陸的な盛り上がりをみせる。力強い。8分ももあるが、いつの間にか聴き終えてしまっている。

8. "Long Long Way" 6:21
そんなこんなでもう最終曲。この曲の歌詞だけ、非常に状況が曖昧に描かれている。Long Long Wayと名付けられたこの歌詞は、はたして終わりの歌なのか始まりの歌なのか…。アルバムは「Not enough...Not enough..」という言葉で締めくくられる。多分これは終わりと始まり、そのどちらでもあって、「どちらにせよ続いていくんだよ」というメッセージなんじゃないだろうか。「足りない、足りない」、その言葉を反復する中、バックで鳴らされるのは非常に希望に満ちた旋律である。長い苦境の中、8年という月日を経てついに新作を完成させたダミアン・ライス。彼の今の心境がココにあるのでは、と思わずにはいられない。激情のオープニングからこのエンディングまで、素晴らしい復帰作だと思う。


久しぶりにやったが全曲感想は楽しい。というかこっちの方が上手く書けている気がする。歌詞の解釈などは勿論自分の勝手な想像なので、是非色んな解釈やらを見てみたい。様々な見方が出来る~というよりは、ある程度普遍的な事象について歌っている作品だと思うが、それでも多くの人の聴き込みに耐えうる強度を持った作品なのは間違いない。
改めて、傑作です。星5つ持ってけぃ。

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タグ: 全曲一言感想づけ

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Author:サム
旧一人音楽座談会。
「もう一回聴いてみよう」「こんなのもあるのか」が好きで、「これだけ聴けばいい」が嫌い。普段はTwitter↓にいます。

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