Mr. Childrenの軌跡 part2 -初期②- (CROSS ROAD~Atomic Heartまで)

前回からの続き。今回は初期②として、「ミスチル現象」が巻き起こった1994年を代表作「Atomic Heart」までで振り返ります。歌詞についてはよく語られるので、この記事ではコード進行について少し触れます。その詳しい解説はいずれ単体で記事をあげるとして、ここでは簡単にコード進行=「楽曲の雰囲気、その一連の流れ(ブロック)」のことだと思って、形容詞の流れを捉えていただければ幸いです。


94年ミスチル
94年、大ブレイク前夜のMr. Children。前回に比べると一気に芋さがなくなったものの、まだまだ時代感強し。この桜井さんの写真うつりやたら良い…。

 
 
CROSS ROAD(93年11月リリース)
やはりというか、90年代らしくそのブレイクはドラマ主題歌からだった。これまでのキャリアで培った作曲術をフル動員した「CROSS ROAD」が、大ロングセラーで発売から5か月後にしてミリオンヒットを達成。当時の桜井が「100万枚売れる曲がかけた!」と叫んだとされるのは有名なエピソードだ。

ミスチル初期を詰め込んだような、オールディーズ感漂う甘ったるく少し切ないミディアムバラードだが、際立っているのはメロディ展開のスムーズさ。曲の基本的な進行、雰囲気は3つだ。メジャー感の強い明るいAメロとサビ、ノスタルジックなM7の響きが印象的なイントロとBメロ、そしてメジャー(明るさ)とマイナー(悲しさ)を行き来するドラマチックな大サビ。つまりノスタルジーと明るさを行き来する中で、過去とこれからを歌う歌詞が引き立っていく設計になっている訳である。この対比が肝で、単純にメロディ・歌詞とコード進行の起伏だけでAメロからサビ、大サビから終わりまで見事な放物線を描ききっている。桜井の快哉も頷けるところである。「しるし」(07年)以降は派手なアレンジで盛り上がりを演出することが多くなっただけに、この曲のコンパクトさは今こそ新鮮だ。

リズムセクションは時代と技量を感じさせ芋ったいが、そこは小林武史が絶妙なオブリとキメの導入でフォロー。特にBメロからサビに入るまでの丁寧な流れはザ・スタンダードポップスの巧みさ。バンドというより、桜井武史という黄金ポップスメイカーによる初期の名曲だと思う。確信を掴んだ桜井のもと、ここから奇跡のような売上的全盛期がMr. Childrenに訪れるのだった。



innocent world(94年6月リリース)
そして、である。代表曲のひとつ「Innocent World」が、CMタイアップ絡んでで200万枚近い特大ヒットを記録する。印象的なイントロがGtの田原さんによってもたらされたことはファンとして書かないといけないところだ。この楽曲はいくつもの点でMr. Childrenの転機だった。単純に人気爆発の契機であり、作詞ではラブソングを脱し自問がはじまり、バンドとしても前記事で評されたような「思春期」や「甘さ」といったイメージからのステップアップであった。ギターフレーズを主役に始まるシングル曲も今作が初だ。

この曲ではサビ前の導入を取り上げよう。「いいだろう →Mr. myself」の部分、一瞬何とも言えない(エモい)感覚に覆われると思うが、これは泣きメロテクニックのひとつ、平行調のコードを借用することで生まれている。かいつまむと、メジャーキー(明るさの中)でマイナーキーの(悲しい)コードを使う=「切 な い」という技法だ。これは古今東西色んな名曲に使われているので、響きを覚えると他の曲にも発見があると思う。似た時期のヒット曲ではスピッツの「ロビンソン」もこのパターンでサビに入る(「つくりあーげー →たーよー」の部分)のだが、「だれもさわれない →ふーーたりだけ」の部分と共に聴けばその効果が絶大なのが分かる。ドラマを生む進行だ。

また、最後のアウトロではイントロのフレーズこそ同じながら、バックをメジャーキーからマイナーキーに鳴らし変えることで曲に「覚悟」「決意」といった印象を加えている。これはユニコーンの「素晴らしい日々」のイントロ・アウトロも比べて聴くとわかりやすい。憂いと力強さを持った歌詞ふくめ、単純に明るいとも切ないとも言えない、不思議な輝きを宿したバンドの代表曲であり、「あのころ」という時代の名曲だ。主観だが90年代からファンと00年代以降ファンとでこの曲への思い入れはかなり差があるように感じる。それだけ当時衝撃の曲だったのだろう。

Innocent-min.png
このメガヒットでもってMr. Childrenは「ミスチル」となり、1994年のヒットチャートはミスチルが完全に制圧した。以下が「ミスチル現象」と言われるゆえんである。シングル年間1位にinoccent world、15位にCROSS ROAD、そして年末には最大のヒット曲「Tommorow never knows」(累計267万、邦楽歴代シングル売上7位)リリース、その3週間後には「everybody goes -秩序のない現代にドロップキック-」がミリオンヒット。過去作も急浮上し、なんと94年の上下半期だけで総売上約1000万枚という異常な数値を叩き出した。翌年もその爆撃的ミリオンヒット量産は続くのだが、そこは次回(中期①)に筆を渡し。ここでは94年と初期の統括として同じく記録的なセールスを記録したこのアルバムで記事を終えよう。



「Atomic Heart」
94年作。4th. 総評・★★★★
イメージを一気に塗り替えようとした転機の一作

大躍進というレベルを超え、前作versusから売上10倍増の累計340万超と一気に当時のアルバム売上記録まで更新してしまったバンド最大のヒット作。「星になれたらいいな」と、幼い言葉で初々しく歌っていた青年は最短距離でその夢を叶えた。桜井和寿は当時24歳である。意味が分からない…。

爆発的な人気上昇のなか、バンドはその音楽性を大幅に変貌させた。「君のこと以外は何も考えられない~♪」などと歌っていた桜井が突如世相に切りこみだしたデジタルロック「Dance Dance Dance」と挑発的な歌詞が目立つストーンズ調「ラブコネクション」がまず大規模ライブを意識して制作され、アルバムの随所に打ち込みサウンドが加わり、その名も「Asia」のロック交響曲まであり…と、小林武史が主導した新曲調の振れ幅はやたらでかい

今でこそ「ミスチルだねぇ~」と思うが、学生・青春な甘いポップ感詰まった1stから順に聴いていくと、いきなりデジロックきめてロックンロールスターを演じてみたり、シリアスに国規模の歌詞まで紡ぎだす今作は「一体何事か」という豹変である。変貌は例によって小林武史の趣向によるものだが、結果的に、ここでの新曲調にも見事に対応した桜井のメロディと歌詞の幅は大きく広がり、バンドもロックへの接近によって今に至るまでの貴重な財産が形成された。innocent worldのヒットから、すかさず「甘い青春バンド」を脱しようとしたのは成功だったのだろう。

ともあれ初期路線の名曲「over」や「クラスメイト」もあるのがニクいところ。まさに初期から中期への橋渡しとなる意欲作だ。アルバムとしては散漫すぎるが、勢いだけで持っていかれる強さがある。やっぱり代表作のひとつです。個人的には生楽器・打ち込みのバランスと曲調の変遷が抜群のサラリーマンソング「雨のち晴れ」が大好きだが、ここでは初期の集大成として、みじめったらしい別れのラブソングを圧倒的メロディで取り繕って歌いあげた「Over」を。


せっかくなのですこし違う角度から今作を見てみよう。
「KEISUKE KUWATA」(88)
小林武史ワークスという点では、そのデジタルサウンドへの傾倒は同じく(当時は新鋭の29歳だった)彼がプロデュースした桑田佳祐ソロ名義のファーストとも重なるところがある。勢いこそあれまだデビューしたての青い桜井さんと違い、こちらは既に邦洋世界のポップスを昇華してきた桑田圭祐。そのメロディの応酬が聴き所だ。もしかしたら武史としては、今作の再構築をミスチルという人気絶頂のバンドで果たしたかったのかもしれない…。渋いジャパニーズポップスの名作なので、関連作として是非。

「ハチミツ」(95)
また、今ではあまり信じられないが、「Crispy!」(93)で路線変更したあとの当時のスピッツはミスチルとよくギターポップバンドとして比べられていた。ずいぶん乱暴な比較だと思うが、音楽性でなく制作方針でみると面白い。スピッツの特集記事にも書いたが、同じ大ブレイクのあとでも、まずは己の等身大のバンドサウンドで「ハチミツ」をリリースしたスピッツと、敏感に世の中に反応し、スターの振る舞いとしてスタジアムロックまで等身大を超えて一気に吸収しようとしたミスチル(&小林武史)…このあたりの違いは、両者の今後が量れそうなところである。


閑話休題。今作からミスチルは武史主導もあってロックやら何やら大きく取り入れ出した訳だが、少なくともこの時は、売上が膨らましたバンドのスケール感の中身は空虚なままだったと思う。なんといったってメンバーは一般的な社会経験もほぼないただの24歳なわけで、そのあたりの虚像具合も根の深い問題になって今に続いていく。ともかく「ミスチル」は空前の人気バンドとなり、絶頂期に達したと思われたのだが…締めは"求めていた気がするもの"、成功への確かな手ごたえを感じながら、理由のわからない不安を持ってつづられたこの一節で。まさに初期の思春期の終わりをつげるところだ。

「陽のあたる坂道を昇るその前に 
  またどこかで会えるといいな イノセントワールド」
(innocent world)




part2、そして初期はここまでだ。ここから、肥大しすぎたバンドは異常な注目の上で激しく揺れ動くこととなる。イノセントワールドに不穏に滲んでいた、桜井の戸惑いや世間への違和感・ストレスが作曲に浸透してきたのだ。ここからミスチル…いや、桜井の自意識がバンドに回帰していき、およそポップスターとはかけ離れたディスコグラフィが形成されていく(なのに売上は全盛を極めていく)、バンドとしてはおよそ不幸にして、作品としてはこの上なく魅力的な時期が始まるのだった。(part 3 / 中期①へ続く)

主観で選ぶ、ミスチル初期の重要曲、名曲10選
1. CHILDREN'S WORLD(1st収録)
2. 抱きしめたい(2nd収録)
3. 星になれたら
4. blue
5. Another Mind(3rd収録)
6. CROSS ROAD(4th収録)
7. innocent world
8. Dance Dance Dance
9. 雨のち晴れ
10. Over
大体ベスト通り。初期をザッと振り返るなら通称「肉盤」から入って、それぞれのオリジナルアルバムに向かうのがいいかと思う。
MR. CHILDREN 19992-1995(肉盤)
     

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サム

Author:サム
旧一人音楽座談会。
「もう一回聴いてみよう」「こんなのもあるのか」が好きで、「これだけ聴けばいい」が嫌い。普段はTwitter↓にいます。

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