Kurt Vileについて ~過去と今を結ぶ、USインディの理想像

(2015/11/03 初出、2016/10/13 全編書き直し)
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USインディとKurt Vile
話を始める前にまずひとつ。「USインディ」という言葉、カテゴリにどんな音楽を想像するだろうか?否定的な人なら、冴えない男たちがなんか内輪でやってるやつ、社会やポップから一歩引いたところで音楽やってるスケールの小さい奴らか。好意的なひとなら、ドリーム・ポップ、ネオアコ、シューゲイザーなどを通過したキラキラ(あるいはセンチメンタル)なギターポップ?はたまた、グチャグチャな年代のサイケを強引にまとめた万華鏡的なサイケデリア?オルタナよろしくの轟音・エモやポストパンク譲りのアプローチが鳴り響く、一枚岩の様でその実多様なギターロックか。いやいや今の時代そんな単純には分けれない、Yo La Tengoのようにそのどれでもあったりもするだろう……とか。

実際の音はどうあれ、そこにあるのは「歴史(過去)への視点」、そして「トレンドに囚われない創作」だ。USインディは、それぞれのミュージシャンが自分の音楽史観を手工芸で好き勝手に再構築していくような創作スタイルを指している、と個人的に思っている。

というところで本稿の主役、1980年生まれの長髪シンガーソングライター、Kurt Vile(カート・ヴァイル)の登場だ。往年のルーツ・ミュージックを見事2010年代的な「インディ・ロック」へ更新したシンガーソングライター。ex. SONIC YOUTHのサーストン・ムーア、キム・ゴードンに、Dinosaur. JrのJ.マスシス、Deerhunterのブラッドフォード・ コックスと、錚々たるミュージシャンにリスペクトされ、全米チャートTOP40、全英チャートTOP30にランクインするスケールをもった、2010年代のUSインディを代表するミュージシャンの一人。今回は順を追って、そんな彼の魅力について書いてみる。(紹介記事としてはちょっと長くもあるので、「で、どれを聴けばいいの?」という方は、記事中の動画をクリックしつつ、最後の「初めて聴くなら」に飛んでいただければ幸いです。)

音楽性について
1stより。
多くのUSインディ勢と同じく、彼の音楽には「ローファイ」が底にある少年時代を90年代のど真ん中で過ごしてきたカートは、次第にベックやペイヴメント、ガイデッド・バイ・ウォイセズといったアーティストに心を奪われ、名門インディレーベル「ドラッグシティ」の音源を聴きあさるような少年だった(なんて素敵な!)。しかし彼はローファイサウンドに、初期ペイヴメントフレーミング・リップスのような"ジャンク"や”トリップ感"ではなく、「音のモヤ」を見た。ソロデビューアルバムとなった宅録音源集Constant Hitmaker(08)は、卓越したメロディラインと多彩なギターワークから霧がかった独特の音像を結んだ、ソフトサイケ・ポップ(フォーク)の佳作だ。さっそく名門「マタドール」に認められた彼は、スタジオ録音、バンドでのツアーを経て、更にその音楽性を磨きあげていく。

5thより。名曲。
一つの極まりを見せたのが、2013年に発表された名盤5th『Wakin on a Pretty Daze』。バンドサウンドを強めていく中で、彼のもう一つの音楽史観が浮かび上がっていった。それは父親の影響だ。一昔前のカントリーやフォークの古展たち、そしてブルース・スプリングスティーン、トム・ペティといった「ハートランド・ロック」と呼ばれる70-80年代のルーツロック。(何ぞやという方は、Apple Musicにプレイリストがある)。骨太なグルーヴが鳴り響くハートランド・ロックと、ローファイを音の霞として認識したカートの感覚が共振することで、柔らかい広がりをもちながらも、タフでダルなサウンドスケープが誕生した。異なる時代のハイブリッド、どちらも等距離における今からの再構成。少なくとも現行のメインストリームからは絶対生まれなかったであろう融合は、まさに「USインディ」的な価値観のもとマイルストーンが加わった瞬間だった。上の表題曲は、誰もが一聴して懐かしさと暖かさを感じるとともに、決して60年代や80年代には聴けなかった音をもった名曲だ。

4thより。
また、フォーク由来のアコースティック・ギター・ワークを使った作曲も彼の大きな魅力だ。このあたりはDinosaur JrのJ・マスシス、最近のソロワークスとも似た方向を向いたもので(マスシス自身カートを客演、対バンに招待などしている)、彼のファンもチェックして間違いないだろう(ちなみにここに前述の霞要素も持ち合わせている彼からは、こんな曲もできあがる。素ン晴らしい。)

6thより。
最後に最新作のリード曲をひとつ。絡み合うギターリフとずっくり腰を下ろしたグルーヴが心地よいこの曲は、「鏡に映ってる見知らぬ間抜けな男は誰だ?――あぁ、俺か」からグルグル回りだす自意識と言葉遊びが楽しいポップチューン。
彼は詩作においては、70-90sといった音楽群をあまり参照しない。ロックンロールの大号令の名残、音楽にまだ全能感が宿っていた幸福な時代が70s。そこに限界が見えてきて、パンクと不況を経るうちに、ブルーズ的な哀愁がニヒリズムに置き換えられ、自嘲するのではなく、静と動の暴力的なダイナミズムで発露することでブルーズ(あるいはフォーク)を再発見したのが90年代のグランジ……一部を見れば、そんな捉え方もありだろう。しかし、カートはその音楽を愛しつつも、どちらの姿勢にも惹かれなかった。カートの詩にあるのは、ユーモアをもって自問自答を繰り返し、世界に対して醒めた(冷めたではない)視点を決して崩さない、往年のシンガーソングライターのそれだった。


ミュージシャンとしてのスタジオ作業、作曲の挑戦、他バンドからの刺激。友人との出会い、ツアーでの経験、結婚や子育て……そんな日常をうけながら、緩やかに進化・変化しつつ、まったく揺るがない芯と視点をもって音楽を発表し続けるカート・ヴァイル。そんな彼を、いま最も信頼できるアーティストといってもそんなに怒られはしないはずだ。


最初に聞くなら
さて、彼の入門作にはやはりブレイク後の3枚がオススメだ(インディロックに愛着のある方なら、ファースト「Constant Hitmaker」が最適かもしれない)。

4th。総評・★★★★☆
彼のブレイク作にして、フォーク、ロック、サイケにローファイと、その魅力が凝縮された一枚。45分とコンパクトなのもうれしい。深夜孤独に浸る方に。下の一曲だけでもう、名盤であることが分かる気がする…。
Kurt Vile "Baby's Arms" - YouTube

5th。総評・★★★★★
存分に尺をとった開放的な曲たちは長距離ドライブに向く。新作は「時間をあげるよ」という歌詞が印象的に響く一枚となったが、11曲69分というゆったりすぎる今作の時の流れはまさに至高のひと時。
Kurt Vile - KV Crimes - YouTube
最後に、最新作の感想を張ってこの記事を終わりとしよう。入口はどこからでも。Kurt Vile、ぜひにどうぞ。
「Kurt Vile / b'lieve I'm goin down...(2015) 感想」
     

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サム

Author:サム
旧「一人音楽座談会」。
音楽に限らず、作品やアーティストに対する検索結果がもっと充実したらという気持ちで更新しています。「もう一回聴いてみよう」「こんなのもあるのか」が好きで、「これだけ聴けばいい」が嫌い。
背景はBOCの「Tomorrow's harvest」。Twitterは↓。

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