Kurt Vile / b'lieve I'm goin down...(2015) 感想


6枚目にして、ついにうつむかず(影にならず)こちらを見つめ返すように。ローファイ宅録青年時代からの、スケールの広がりと自信の深まりを感じさせたり。

(凄く良い)>太字(良い)>普通 赤太字は名曲 、斜体はリードトラック、下線は個人的なベストトラック

トラックリスト
1. Pretty Pimpin  4:58 視聴はこちらから
2. I’m an Outlaw  4:21
3. Dust Bunnies  4:38
4. That’s Life, Tho (Almost Hate to Say)  6:26
5. Wheelhouse  6:14
6. Life Like This  4:04
7. All in a Daze Work   4:59
8. Lost My Head there   6:55
9. Stand Inside  5:12
10. Bad Omens   2:50
11. Kidding Around  4:27
12. Wild Imagination   5:50

Total length : 60:54

ゆるやかに変化していく日常を音楽と共に
総評・★★★★☆


すっかり評価を確立したUSはフィラデルフィア出身のシンガーソングライター、カート・ヴァイルの6作目。彼のこれまでについては前エントリーを参照してほしい。今作も基本的な路線は変わらないが、室内感のあった前々作、外の空気があった前作ときて、今作はその両方を行き来するような集大成的内容と言えるだろう。

ここでは、改めてカートの魅力に触れるのではなく、各楽曲の魅力について書いていこうと思う。随所に確かな経験値の蓄積がうかがえるが、特に成熟を極めた開幕3曲のバンドグルーヴは聴きものだ。リード曲「Pretty Pimpin 」での中盤以降(2:30~)のギターの絡ませ方とボーカル、続く「I’m an Outlaw」のなめらかなツインバンジョー(!)の交錯、「Dust Bunnies」のツボを押さえたリズム隊……。どうしてもポストパンクやニューウェーブ的なアマチュアイズムに陥りがちなUSインディの中で、この堅実で柔らかいバンド演奏は貴重だ。リードトラックにもなった「Pretty Pimpin」は、鏡の前にいる"見知らぬ男"、自分に嘆きの皮肉を送るというユーモラスな歌詞展開も秀逸だ。


その後はかなり落ち着いたアコースティックナンバーが続くので、中だるみを感じてしまうかもしれないが、聴けば聴くほどどれも妙のある楽曲になっている。「That’s Life, Tho」は人生について思考した大人の渋みを感じさせるSSWらしい一曲で、「Wheelhouse」はよりパーソナルな視点で生活を歌ったもの。光を辿るようなイントロのアルペジオと、孤独を歌い上げるマイナーコードの対比が美しい(カート自身はこの曲をベストトラックにあげている)。ピアノの旋律に絶妙なギターオブリをからめた新境地「Life Like This」も今作のハイライトの一つ。「僕みたいな人生を生きたいの?」という問いかけから、聴き手を煙にまいていく構成がニクい。Pavementばりの壊れた歌詞を持つ「Lost My Head There」のソフトサイケな世界観も面白い。

シンガーソングライターとして歌うもの
全体として、相変わらず派手な盛り上がりも高揚感もない、ややすれば長尺で平坦なだけのアルバムに映るが、存分に用意された時間の中で彼は、いつも通りにちょっと変化を加えつつ、音楽と一緒に日常を思考し歌いあげていく。だからこそ最終曲「WILD IMAGINATION」にて何度も繰り返されるメッセージ、「Give it some time...」は確信をもって響いてくる。過程はまるで違うが、レディオヘッドの名盤「OK Computer」の最終曲「The Tourist」が思い出される。スケールは違うが、描くところは似たものだろう。「おい、スピードをおとせよ。ゆっくりやれよ」。これは現代社会への警鐘、もう少しつっこんで言えば、あきらめの混じった皮肉であった。しかし、そこから15年以上の月日を経て、より色々なことが深刻になっていった今に、カートは温かい声でこう歌う。「時間をあげよう、時間を…」。この包容力というか、優しいまなざしというか……パーソナルに落とし込んでのメッセージを受け取ると、やっぱりこの人は類まれなSSWだなぁと感じ入る。その時間のなかで、僕らは何をするのか?カートは日常を味わい音楽を奏でる。さてこちらは…。

あわただしい通勤時間などでなく、ゆったりとした時間のなかでこそ聴き浸りたい。10年20年先も愛されるだろう、当代きってのシンガーソングライターの充実作だと思う。

作品の参考リンク
[INTERVIEW] Kurt Vile | Monchicon!
ジャケットのモチーフなどから今作を「ウエスト・コースト・ロック」への接近と読んだり。さすがの掘り下げ方で面白い。
     

タグ: 15年 60分台 佳作

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プロフィール

サム

Author:サム
旧「一人音楽座談会」。
音楽に限らず、作品やアーティストに対する検索結果がもっと充実したらという気持ちで更新しています。「もう一回聴いてみよう」「こんなのもあるのか」が好きで、「これだけ聴けばいい」が嫌い。
背景はBOCの「Tomorrow's harvest」。Twitterは↓。

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