THE BLUE NILEについて ~80s音響の到達点とその先 

blue-nile_2409892-min.jpg
THE BLUE NILE
ポール・ブキャナン - Vo, Gt
ロバート・ベル - Ba
ポール・ジョゼフ・ムーア - Key (2004年脱退)

カルム・マルコム - Enginner(メンバーではないが、全作品に関わる重要人物)
Calum Malcolm | client list, artists その仕事ぶりは公式サイトに詳しい。立役者です。

ブルーナイルは、煌びやかな喧騒に包まれた80sに登場した超寡作の職人肌的音楽グループです。生音はもちろんシンセサイザーにすら体温を感じさせる音色のマジック、音の隙間を交差させるような独特なアレンジ、同時にそのひたすら実直で心に響くポール・ブキャナンの歌唱によって、今も陰ながら多くのミュージシャン・リスナーに愛され続ける存在、と思います。彼らは一般的に1st、2ndと名盤を残したユニットとされているのですが、自分は彼らが長い空白のあと作り上げたサードアルバム「Peace at last」に最も思い入れがありまして…。今回は彼らのキャリアを追いながら、その魅力、そして「Peace at last」について、その関連作と書いていこうと思います彼らの音楽は、特に深夜に響きます。この記事が何かのキッカケや参考になれば幸いです。

目次
1st 「A Walk Across the Rooftops」
2nd 「Hats」
 ←初聴きにオススメ
3rd 「Peace at last」
 ←初聴きにオススメ
あとがき
関連作品について



1st 「A Walk Across the Rooftops」(1984)
彼らの基本的な音楽性はデビュー作にして完成されていました。ブルーナイルの曲を引き締めるのは、ポール・ブキャナンの、ゴスペルやフォーク、そしてエルヴィスのロマンチズムを基とした、本格派のボーカルと詩作です。これに関しては、リードシングルとなった情熱的な名曲「Tinseltown in the Rain」を聴いてもらえればと思います。この声にくわえて、AORやNW、エレクトロファンクの影響まで伺える全体の完成度の高さは、MVありきのヒット曲も多かった時代的にも、明らかに一線を画す内容でした。

今作最大の特徴は、全編にわたって展開されるサイケともエレクトロニカともいえない幻想的な音世界が最たる魅力に思います(キャッチーさという点で、初聴きには向かないかもしれません)。くくるならシンセポップやニューウェイブの意匠とは思いますが、この否応なしに音の隙間・空間を知覚させる大胆なサウンド設計。その特異性は一曲目の表題曲に顕著で(下の同曲動画、30秒あたりから)、長い静寂を敷いたあとに展開される、密室に各々の音が空間上で交差していくようなアレンジは今聴いても鮮烈な印象を与えます。、他にも「From Rags to Riches」のアプローチは…すごい。今作は大ヒットこそしませんでしたが、のちに「1000 albums to hear before you die」にも選ばれ、1stにして彼らは「ミュージシャンズ・ミュージシャン」としてまずその名を馳せたのでした。




2nd Hats(1989)
初聴きにオススメ。前作で確かな評価と注目を得たものの、極度の寡作家である彼らは二作目を発表するまでにいきなり5年もの歳月を費やしてしまいました。実際マイブラのLovelessよろしくの訴訟寸前だったようで、新人としては驚異の粘りだったと言えるでしょう(?)。しかしそうして発表されたのは、ブキャナンのボーカルとメロディをよりフューチャーしつつも前作の音楽性を突き詰めた、印象的なジャケットともに名作と名高い「Hats」でした。本作は80年代の名盤に数えられることとなり、チャートでもUK12位を獲得する代表作となっています。

今作は「夜の名盤」として名を馳せてます。その最大の理由が「雰囲気」。まずは録音です。80s特有の時代を感じさせる音色の中でも、シンセにしてもあくまで人肌の音感覚を追及したカルム・マルコムによって今作は今も通用する代物になっており、とにかく包むようで耳に心地よい。そして歌われるのは、かけがえのない日々のワンシーンです。

彼らの代表曲である「The Downtown Lights」では、愛する人とダウンタウンの光の下を歩きながら、その瞬間の尊さに「How do I know you feel it?(どうすれば君の気持ちがわかるかな?)」と問いかけ、「It's alright」と呟き、自身を街を照らすライトとかけ合わせ、相手を慈しむ。聴いてるこちらまで優しく包まれるような感覚を覚える、素晴らしい歌詞だと思います。その情景に合わせ、どこまでも伸びやかに連なっていく後半の声と音の広がり…。似た色を持つtr4と合わせて、「Hats」の魅力を象徴する名曲です。

アレンジ面でも特筆すべきところは多い。tr6「SEVEN A.M.」後半の、エッジの効いたベースとカッティングギターにシンセ、プリンスのSign of the times的フレーズが掛け合ってうまれていく、1stの発展形といえる密室音響の覚醒感は凄まじく(フェードアウトが惜しまれる…)。映画挿入歌のような迫力で荘厳に歌われるtr5も素晴らしい。アルバム構成を見ても、tr1で労働と現状に疲れ果て「あの向こう」に思いを馳せていた主人公が、最終曲においてかけがえのないパートナーを見つけることで安らぎを得るという流れになっており、さながら38分のロマンスを見ている気分にさせます。

自分の経験に加え、Amazonレビューにも並ぶように、本作は「ひとり」「夜」といった言葉に導かれる感情をそっとすくい取ってくれる一枚だと思います。それはひとえに、本作の空間構築であり、誠実なボーカルであり、その詩からなる優しさなのでしょう。多くの人にきいてほしい、非常に純粋な名盤です。


そんな、多くを惹きつける名作を残し、彼らは表舞台から姿を消しました―…。




3rd Peace at Last(1996)
といったところが、「ブルー・ナイル」の大体の説明となります。なまじ1st、2ndで完璧に近い名作を残してしまったPixiesと似て、彼らは前述の二作で語られることが多い気がします。が!今回主として取り上げたいのは、そんな彼らが名作2ndから7年の歳月をへて発表した3rdアルバム(UK13位!)です。89年から96年という月日の跳躍は凄まじいものがあります。USはグランジ前夜~終焉を飛び越え、UKはブリットポップが生まれ死に…というところまで時が飛んでしまう訳です。しかし彼らはそんなブランクにおいて、次の言葉をもってこのアルバムを完成させました。「人生が悲しい、くだらない芝居に思えた時、それでもなんとか安らかな心を保ちたいと願う思いを込めた音楽だ」。…そして彼らは「うた」にたどり着いたのです。


今作は旧2作とは趣の異なる一作です。80年代的なシンセサイザーに代わって全面的に取り入れられたのはアコースティックギターの豊かな響き。音響的なアプローチは減退したものの、「ポップソング」、つまり「メロディ」に焦点をあてたことで新境地を感じさせる仕上がりとなりました。ゴスペル、軽快なリズムギター、80sらしいタイトなドラムを軸にした強いリズムを持った楽曲に、静謐なバラードまで…と流石の練度であり、コード進行の移り変わりひとつにも表現の強さを感じさせる。実際これだけで相当な作品ですが、上で彼らが述べたように、この作品の最大の魅力は「うた」、そこに込められた思い、転じて「祈り」のような部分にあると思います。

このアルバムには奇跡的な瞬間が何度も訪れます。「Happiness」のラストにおける、祈りをささげるメッセージがかすれた裏声とともに高音に投げかけられる一瞬。「Tommorrow Morning」の、慈愛に満ちた「Come on, girl」の一声から静かに躍動していく音たち。今作のベストリリックであろう「Family Life」の後半、一瞬の高揚から導かれる音の連なり、人生・家族・神・愛といった本作のテーマを歌い上げ感極まったあと、静かに呟かれる「不思議だね(Mystery)」という一言。聴き手、気分によってその瞬間は変わってくると思いますが、そんな諸々の瞬間に聴き合うたび、音楽というものの素晴らしさに感じ入ってしまいます。今作に関しては、大げさでなく。

本作のテーマはスケールが大きすぎて計り知れないものでもあるのですが、それでも彼(vo, ポール・ブキャナン)がどれだけ真摯にこの「うた」を祈り紡いだかは、声の震えひとつからして心で感じられる。自分が思うベストトラックは「Happiness」です。彼らのアルバム全てに言えることですが、夜ひとりで、憂鬱に眠りにつくしかない…そんな時、このアルバムを再生してみてほしいです。 きっと何かが感じられると思います。




「大切な音楽」というものがある
時々、「なんで音楽を聴くんだろう」というようなことを考えます。以前記事にまとめて書いてみたのですが、自分のなかで音楽を聴く理由は、かいつまむと「何かを感じられるから」です。そのなかでも、心に響いてくるようなものがある。そんな大切な作品がある。「Peace at Last」に引用した言葉通り、THE BLUE NILEはそんな音楽を作っていると思います。何より、彼の詩作って最終的には「yeah」のような感嘆詞に託すことが多いんです。そこに全てを乗せて歌うことができる強さ彼らのアルバム一枚があったことによって、少し気が軽くなったり、視線をちょっとだけ前に向けれたり、寝れない夜を越えれたり、そんな人がきっと、世界に何人もいる。陳腐化した物言いですが、彼らの作品を聴いていると心からそう思えるし、そういう力が音楽にあることを信じられる。「うた」を主とした音楽における、この上ない作品群だと自分は思ってます。


彼らは今も自分たちのペースで音楽を続けています。Peace at Lastのあとは、8年の歳月を経て「High」が20004年にリリースされ、なんとUKチャートにて初のTOP10入りを果たしました。2012年にはブキャナンが初のソロ作「Mid Air」を発表…と、相変わらずの発表周期ではあるのですが、どれも素晴らしい作品です。たぶん、彼らの楽曲はいくつになっても聴き続けられると思います。それはきっと、それだけの時間と思いを彼らが音楽に込めているからで…(まぁ、もっとリリースペースはあげてほしいのですが…って台無しだ!)。そんなTHE BLUE NILE、聴きませんか。



オマケ・関連作品について


「THE BLUE NILE」の関連作


Talk Talk / Laughing Stock (1991)
80年代に、シンセポップから新たな道を切り拓いたとなるとこのバンドも外せません。トーク・トークはロマン派のようなダンスポップを鳴らすバンドとしてデビューしたものの、後年はプログレやアンビエントにまで踏み込み、かのSlintと並び(!)、90sにその名がつく「ポストロック」の先駆けとも語られるようになった、稀有なバンドです。今作は彼らにとって最終作であり到達点となった、静寂すら巨大な存在感で迫りくるような傑作となっています。モグワイやシガー・ロスに加え、レディオヘッド、ポーティスヘッドまでが愛したその無二の音楽性は、ブルー・ナイルの温かみとは真逆ながら必聴。たどり着いた先こそ違えど、同時代の音楽家として並べ聴いてほしいです。Voのタイプも近いし。うたものから入りたい方は、過渡期の作「The Colour of Spring」がオススメ。

「Peace at last」の関連作
「長い期間を経て、ふたたび力強く"うた"に回帰した」そんなピックアップ2作。

Prefab Sprout / Andromeda Heights (1997)
ブルー・ナイルと同時期にデビューし、形と音楽性は違えど同じく80sにその音を残したプリファブ・スプラウト。彼らはブルー・ナイルとは1年違い、90年から7年の時を経て新譜リリースに至りました。美しいアートワークが印象的なこの復帰作は、一気に音の輪郭が現代的(1997年ですが)になったことで、色彩豊かなアレンジと従来のメロディセンスが輝いた会心作でした。エンジニアは、なんとカルム・マルコム。制作時期と言い、シンパシーを感じさせます(勿論素晴らしい仕事をしてますよ)。アートワーク通り、ひたすら素敵な楽曲がスピーカーから部屋へと流れ込む、至福のひと時が味わえる一枚です。


Damien rice / My favourite faded fantasy(2014)
「うたの強さ」という点で関連づけられるかと。思わぬところで記録的なセールスをあげ一世を風靡した結果、音楽を作る意味を見失ってしまったSSWが、8年の歳月を経てたどり着いた「うたう意味」。自身の人生を踏まえ、人間関係の終わり、新たな始まりを見据えて綴った渾身の抒情詩。うたによって壊れかけたひとりの男が、うたによって新しい道に進みだす様をアルバムに納めた名作です。うたの誠実さ、力強さにおいてPeace at Lastに近い境地を感じます。ブログ感想記事はこちら。
     

タグ: 80s アーティスト紹介記事

コメント

コメントの投稿


非公開コメント

プロフィール

サム

Author:サム
旧一人音楽座談会。
「もう一回聴いてみよう」「こんなのもあるのか」が好きで、「これだけ聴けばいい」が嫌い。普段はTwitter↓にいます。

カテゴリ
Twitter
リンク
クリックで展開
NewCcounter