Tortioise / TNTを聴く② 「Jetty」~Isotope217、Chicago Underground、"ポスト"ってなんだ

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画像出典:http://www.amazon.com/Isotope-217-Press-Photo-Tortoise/dp/B00DRQBSCI

TNTあたりのトータスにふれるなら、フリージャズ畑とトータスメンバーが引き寄せあって結成されたIsotope217は外すことができない。最後の登場人物の項でも触れるが、TNT→Standadsへのミッシングピースともなるグループだ。Tortoise、ポストロックの代表作について書いていく記事part2。前段はこちらからどうぞ。今回はIsotope217のファーストから、見事な”ポスト”を描いて見せた一曲「Jetty」の特集です。この曲の制作に絡んだ風景に見える、理想的なポストロック像について…1990年代後半のシカゴに足を伸ばして書いていきます。
  

「Jetty」 
ジェッティー。「TNT」に収録されている本曲は、ややこしいことにRemixふくめると4種類もある一曲だ。それぞれ「Isotope217 / The Unstable Molecule(1997)」、「Tortoise / TNT(1998)」、「Chicago Underground Trio / Possible Cube(1999)」、「Various Artists / Chicago 2018 (2000) - トータス自身の再Remixとして-」に収録されているのだが(※1)、この曲について今回は見ていく。

目次
Isotope 217が生んだポスト的ジャズと「Le Jetee」
Tortoiseが発展・提示した「Jetty」
「ポスト」という言葉 
・登場人物紹介
 (Isotope 217、Chicago underground Duo、Squarepusher)




Isotope 217が生んだポスト的ジャズと「Le Jetee」
ここではまず最初にスタジオバージョンを完成させた、トータスと同郷、シカゴの兄弟バンド「Isotope217」について見てみよう。Isotope217は、シカゴのフリージャズグループCicago Underground Duoなどでも活躍する「Rob Mazurek」がトータスメンバー3人と結成した、音響面・録音後のスタジオワークといった要素を取り入れた新しいジャズ…的な何かを目指したグループだ(詳しくは登場人物紹介にて)。「Le Jetty」は、彼らのファーストアルバムに収録された一曲である。


「The Unstable Molecule」(1997)
1stは不思議な一作だ。ジャズ風をまといながらも、徹底してプレイヤーの個を排したようなアブストラクトな音像は、確かに90年代の空気…トータスと同じく、「ポスト」的な感覚があった。熾烈なインプロやリズムの応酬による覚醒を意図的に避け、むしろその非覚醒部分だけを引き延ばしたような…。往年のジャズが演奏偏重の作曲を突き詰める過程で捨てようとした「たるさ」、「余白」に最大のスペースを割いてみた一枚。そんな印象をうける。いうなれば「暖簾」のような存在で、これだけでは深い意味は持たないが、今作を通すことで色々な見え方が生まれるアルバムに思う。一曲目が鮮烈だ。
Isotope 217 - "Kryptonite Smokes the Red Line" [Studio Version] - YouTube

今ではあまりピンとこないが、この間違いなく地味な1stは当時のクラブシーンで一定の人気を博したという。それはシーンが「ジャズ」に接近しようとしたとき、このアルバムが持つ「ジャズっぽいけどガチのジャズとは違う」…個(我)の過剰な演奏でなく、余白を主とした、言い換えるなら「ジャズっぽさだけをサンプリングできるような音」が、関心を集めたんじゃないかと思う。ヒットシングルやメロディもなしにこの注目のされ方は異質だ。他シーンからのこうした視線は、Isotope217が「ジャズにポスト的な何かを生み落とした」証左の一つと言えるだろう。
(余談だが、クラブジャズについてのしっかりとした考察はこの記事が抜群に面白いのでぜひ。→「00年代以前のクラブジャズ」と「00年以降の現代ジャズ」の違い|柳樂光隆|note


そんなファーストアルバムに収録されてるのが「Le Jetee」となる。アルバムの中でも独特な印象を与えるこの曲の魅力は、なんといってもフュージョン曲のメインフレーズを電子機器から鳴らしたようなノスタルジックな主旋律だ(作曲者はTortoiseのGtでもあるJeff Parker)。Isotope217はその旋律にオールドスクールのように簡素なドラムを添え、前述の通り実体のない、スピリチュアルでなければ本来ジャズと正反対であるはずの、アンビエントのような楽曲として構成している。出自はジャズ(フュージョン)なのに、50-80年代の空気は一切まとっていないその音はたしかに「ポスト」的だった。ひとまず、主旋律のワンループが終わる1:20あたりまで聴いてほしい。



Tortoiseが発展・提示した「Jetty」

そしてトータスにバトンは回る。上に書いたように「ジャズが捨てようとした余白」、プレイヤビリティから離れた場所で生まれた「Le Jetee」だが、トータスは更にそのリズムトラックに目をつけ、テクノ経由のドラムンベースを劇的に走らせた。Isotope217のものを聴いてから改めてJettyを聴くと、そのセンスにたまげてしまう。これがドンピシャだった。

「ジャズフォーマットにメロディアスなフレーズ+ドラムンベース(風)」という発想には、間違いなく同時代の寵児「Squarepusher」がある。しかしトータスは主旋律の音色やリズムトラックの様相まで曲の流れの中で幾度となく変化させ、生ドラムの音を砕いたようなコラージュ、打ち込みドラムンベースがいつの間にかボンゴらしき音に置き換わっていたり(!?)と、曲の流れの中で、原曲の可能性――リアレンジ、カバー、リミックスといった再構築作業――をリアルタイムで聴かせていくという独自のスタイルを打ち出した(そしてこれがそのまま、『TNT』最大の功績だ)。プレイヤビリティの縛りを離れた「Le Jetee」は、「Jetty」において音色の一貫性からも離れたのである。Isotope217からTortoiseへのこのリレーは本当に面白い。観念的なところをのぞいでも、色彩も想像できない異空間を縦横無尽に疾走するような感覚を覚える大好きな一曲だ。



「ポスト」という言葉の理想像
"ポスト~"でも"オルタナ~"でも"インディ~"でも音楽の話でなくてもいいが、「何かを作るときに大切なのは、過去の先人たちの財産を継承しつつ、そのフォーマットを単に目指すのでなく、そのどこか"一部"に目をつけて、少し違うものとして更新することだ」という話をよく聞く(話はズレるが、フォーマットを借りて自分の思いを乗せる、勿論それも一つの素晴らしい形だ)。そうした更新が積み重なることで、今の風景が少しずつ進んでいく、あるいはより遠くまで見通せるようになる、現在未来が広がっていく……という素敵な話。今でこそ形骸化してしまったが、「ポスト"~"」という言葉はそうした姿勢に贈られた、時代の呼び名だったんじゃないかと思う。一部に着目し、先に進める姿勢。膠着状態にはいった将棋の盤上の駒が、一気に躍動するような一手。(このあたりは、実際に日本でポスト・ロックという言葉を普及させた佐々木敦さんのコメントが面白いので、興味のある方はぜひ。→「批評」とは何か? 批評家養成ギブス | 佐々木 敦 | Amazon.co.jp



ここで言う「一部」を、今回は「余白」と置き換えてみる。「余白」。音楽においてそれは、ジャンルが深化していくなかで切り捨てられた(Isotope217の項で書いた"たるさ"といった)「不純物」であったり、なんとなくの常識がもたらす、そこはそれでいいだろうというような「思考停止部分」だったり、プレイヤーの個性(技術)といった「制限」、個人の好みといった「非選択」から出来るものだと思う。

Le Jetty(Isotope217)は、"過去"のジャズが固有結界としてもっていた「奏者」という要素を排した。Jetty(Tortoise)はそこで出来たリズムの余白に、"最新"のリズムを走らせた。さらに従来の音楽が持っていた「一曲としての音の流れのまとまり」という常識の余白に、打ち込みを越えて生音、その加工音、他打楽器までを、楽曲の流れ、音色の可能性として持ち込み"更新"した。

『TNT』は、全ての音がただ「素材」として平等に並ぶ卓をメンバー全員で共有したことで、そうした「余白」に自由に、無造作に「異物」を混ぜ込ませていった作品だ。そしてそんな探求の成果・魅力が詰まっているのがこの曲。Jettyは、間違いなくTNTを、そして"ポスト"という概念をどこかで象徴できる楽曲だと思う。
1997年。音楽の可能性を感じさせる瞬間、見事な”ポスト”がこの曲にあった。


おわり

トータス / TNT


補足
※1.幻視のための真夜中音楽 
リミックスの存在、シカゴ・アンダーグラウンドグループで取り上げられていたことはこのサイトさんのページで知りました。ページをのぼっていくと「幽霊的視線」なる所がトップで、そのいかにも"初期インターネット"そのままなデザイン、一曲についてこんな詳細な情報を書いてるのに音楽メインでも何でもなくサイトテーマが「夜」「幽霊」とかいうその潜在能力…この「人目に触れず底知れない感じ」、久々に興奮しました(何の話だ)。



今回の登場人物紹介
Isotope217_1-min.jpg Isotope 217
今回の記事の影の主役。メンバーの詳しくは、英語だがThrill Jockeyのページがわかりやすい2nd「Utonian Automatic」(1999)はトータスの「TNT」→「Standards」のまさしくミッシングピースである会心作で、一曲目「LUH」(9:41)は、フリーキーなオルガンからのインプロがカオスを極めたところで急に静寂の電子音ドローンに移行、そこにそのままジャズのソロを吹き始められ曲が再始動していくという怪曲。このトびよう、「Seneca」より好きっす。トータス好きにぜひ勧めたい一枚。現在活動休止(?)中なのが惜しまれる。Isotope 217 - "LUH" [Studio Version] - YouTube
「Utonian Automatic」(1999)


chicago-underground-duo_1-min.jpg Chicago Underground Duo
Isotope 217を結成したRob Mazurek 率いるシカゴの電子音響・アバンギャルド・ジャズグループ。「シカゴ・アンダーグラウンド」の名のもと、デュオ、トリオ、カルテット、オーケストラとやたら細かくグループ名を分けているうえ、それぞれに幾多もの作品群がある、かなり入口の難しいグループでもある。自分も全然聴ききれてないものの、マッケンタイアProduce、Duo名義での2nd「Synesthesia」(2000)が割と開かれたアルバムかと。およそ自分がジャズから連想しない音を起点にフリージャズを爆発させる「Blue Sparks from her ~」が印象的。Isotope217でもそうだが、Rob Mazurekの、古典的なジャズを敬愛しつつ、新たな交配と可能性を探るポスト的創作スタンスはとても格好良い。もっと掘っていきたいところだ。Chicago Underground Duo - [ Synesthesia ] - Blue Sparks Form Her, and the Scent of Lightning - YouTube
「Synesthesia」(2000)


Square_1.jpg Squarepusher
Jettyのフォーマット、ジャズ要素+メロディアスなリードフレーズ+ドラムンベースといばこの人。チープな打ち込みに超絶ベース演奏という謎スタイルでデビューし、打ち込み全開ドラムンベースで時代の主役になったかと思えば、ナナメに飛び出して完全生音での新しいジャズに取り組んだりと一世を風靡し続けた人物である。孤独孤高を極めた作曲編集の小宇宙的傑作「Ultravisitor」は、作曲の可能性をひたすら一人+卓で突き詰めた点で、複数で挑んだTNTと対比対象になるかも。90年代の彼の一連の試みはポストロックの流れを先導)していたように今振り返ると思う。Jettyから入るなら、「ドラムンベースといえばこれ!」な代表作「ハード・ノーマル・ダディ」がオススメ。Squarepusher - Beep Street - YouTube
「Hard Normal Daddy」(1996)
     

タグ: フォーカス 90s ポストロック シカゴ

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サム

Author:サム
旧一人音楽座談会。
「もう一回聴いてみよう」「こんなのもあるのか」が好きで、「これだけ聴けばいい」が嫌い。普段はTwitter↓にいます。

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