Sonic Youth / Sonic Nurse (2004) ―シティ・ポップが夢見なかった都会

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ジム・オルークが加入しての2000年代SYの名盤「ムーレイ・ストリート」に続く13作目。代名詞でもあった凶暴なノイズワークを抑え、甘いメロディ(!)を見せ、(比較的)ストレートなロックアプローチをとったことで賛否もあった過渡期の一作をレビュー。このアルバムは代表作というわけではないが、個人的に大好きな一作でもあり、長く続くバンドだからこその説得力、住む街の取り上げ方…そのあたりにこの2016年思うところがあって更新する次第だ。ところでこのアルバムタイトルはどうなの…。

太字>普通 赤太字は特筆曲 、斜体はリードトラック、下線は個人的なベストトラック
トラックリスト
01. Pattern Recognition  6:33
02. Unmade Bed  3:53
03. Dripping Dream  7:46
04. Kim Gordon and the Arthur Doyle Hand Cream  4:51
05. Stones  7:06
06. Dude Ranch Nurse  5:44
07. New Hampshire  5:12
08. Paper Cup Exit  5:57
09. I Love You Golden Blue  7:03
10. Peace Attack  6:10

Total length : 62:48

現実に向きあうことで更新されていくもの
「Sonic youthとは…」という句を今更入れるかは迷うところだが、「凶暴なギターノイズや変則チューニングなどを用いたエクスペリメンタル・ロックを展開する、アンチ商業主義・インディーという思想を常に持って活動したロックバンド」、これがバッサリした一般的な説明かと思う。しかしてそのイメージは80-90sの彼らに対するものだ。80年代をノーウェイブの後継者として、90年代をオルタナシーンを支えるものとして存在感を示してきたソニックユースだが、2000年代の彼らはまた新しい方向に向かおうとしていた。今回はそんな過渡期の一作を見ていこうと思う。

まずは今作に至るまでの10年間を軽く。"アンダーグラウンドの外"へと向かっていった「Goo」「Dirty」のスマッシュヒットでグランジとともに表舞台にまで名を轟かせた90年代序盤だが、続く「Experimental Jet Set~」(94)以降のアルバムは、停滞というわけではないが、キム・ゴードンの言葉を借りれば「シーンから意図的に距離をおいた」ものだった。「Washing Machine」(95)「A Thousand Leaves」(98)の二作はその分自身の音楽性を突き詰めたような内容で、個人的に大好きな作だが、当時のUK/USシーンの変遷を考えると、90年代中盤からソニックユースとしての創作が内向きであったのは否めなかった。バンドの美意識が煮詰められすぎた作風。変化でなくひたすらの深化。そこから周りを見渡して、何が見えただろう。音だけを聴いていると、ここで満足して(限界を感じて)解散してもおかしくはなかったように思う。


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そんな中、微妙に浮いている右の男がキーマンとなった

ソニックユースとしてのバンドサウンドの新境地を経て
しかして彼らは、活動約20年を経てさらにこのバンドで存在していくことを選んだ。そして2000年の「NYC Ghosts & Flowers NYC」において、音の天才である「ジム・オルーク」が制作に加わったことで新たなフェイズを迎えたのだ。従来のギターノイズやチューニングといった"トーン"の妙だけでない、音響や録音といった面からの覚醒…続く「Murray Street」(02)での、練りに練られたギターアンサンブルと元来もっていたUSシンガーソングライター的なメロディの結実。これは多くから"最高傑作"にも挙げられる、最初に書いたような「Sonic youthの説明」に納まらない新たなスタイルでの傑作だった。ジムの刺激によって、ソニックユースはバンドとしてさらなる成熟を果たしたのだ。そしてその2作での経験を持って、「かつての自分たちの音楽スタイルを更新しよう」としたのが今作「SONIC NURSE」である。


その洗練度の高さはリード曲でもある上の一曲からも伝わってくる。ノイズから出でコンテンポラリーな洗練を見せたという点では、アート・リンゼイの「INVOKE」(2002)も思わせる変遷だ。アルバムで聴ける歪みを抑えたクランチトーンでのギターの絡ませ方などは、再結成後のテレビジョンがサードアルバムにて辿り着けなかった境地を見せてくれるようでもある。「妙に落ち着いたアルバム」とファンから敬遠されることもあるが、彼らの確かな年季と音楽性を反映した非常に高いレベルにあるロックアルバムなのは間違いない。


そして、新たな表現力を手に入れた彼らは、ここで何を描こうとしたのか?


都会、現代の歪さを描写する
往年のソニックユースからは想像できない形容だが、このアルバムの音は「都会的」という言葉がしっくり来るものとなっている。しかしそれは決して「素敵な大人たちが素敵な夜に~」といった(勿論それだけの音楽ではないが)AOR、シティポップサウンドではなく、むしろそうした情景の脇に追いやられた、都会の負の側面を映すような言葉と音が鳴らされている

その歌詞には「愛するあなた」も「素敵な君」も出てこない。出てくるのはダーティな愛憎に、ドラッグ、性病、都市やテレビ番組の歪さといったものばかり。内省的・祈りの要素があった前作と違い、シニカルなUKバンドのように外を見渡した今作。とにかくこれは"風情"だけを取り出すような一面的な都会のサウンドトラックではなかった。犯罪が蔓延し様々な問題をはらみながら、それでも止まることなく発展し続けていく場所。そんなクライムシティのサウンドトラック…そのイメージとはつまりニューヨーク、彼らの本拠地である。時は「9.11」「イラク戦争」に向かっていった2004年のアメリカ。描かなければならないものがあった。現実に向き合うことで、バンドは再び視線を"外"に移し、変化へと向かっていった。


伝統的なカウンターとしてのノイズの更新
これまでのソニックユースは、自由と未来を象徴する凶暴なギターノイズをぶつけ、肉体的な方法でカウンターの姿勢を示していた。伝統的なアンダーグラウンド、ハードコアのやり方である。それが最も時代を映していたのが、知名度も高い「Daydream Nation」(このタイトルは本当に冴えているといつも思う)「Goo」「Dirty」の三作だ。マドンナといった異次元的なスーパースターについて、キリスト教の欺瞞について、カーペンターズのカレン、ニルバーナのカート・コバーンの忘れてはならない悲劇…そうしたメッセージに、誰も制御できないギターノイズと即興的な間奏が説得力を持たせてきた。


そして10年以上の時が流れ今作に話は戻る。ジム・オルークという音の天才を得た彼らは、今作でそうした80~90年代のスタイルを更新した。閉塞的なギターノイズを取り入れたのである。動画の一曲は、約2分の沈静から綴られた、大衆の期待とともに命を落とした青い瞳のスターへの鎮魂歌だ。「Dripping Dream」に顕著だが、今作はジムのミックスによって、ノイズは時として密室の息苦しさを持って迫る。アンダーグラウンドのライブハウスいっぱいに鳴り響く"開放のためのノイズ"から、都会の片隅にギリギリと捩じ込められた"警鐘と閉塞感としてのノイズ"の獲得へ。こうした音こそ、今作で彼らが鳴らし得た新しい表現だったように感じる。そこに至った理由を思うとき、やはり時代的な背景が透けてくる。


看過できない現実に対し何を表現しえるのか
ストレートにメッセージをぶつけることはあまりしない彼らだが(基本的にバンド演奏の快楽を第一とする人たちなのだ)、またしても戦争に傾れこんだ自国への思いのほどは、短いながらもサーストン・ムーア(Gt, Vo)のインタビューでの発言から伺える。前作「ムーレイ・ストリート」ではそれが内省的なものとして鳴らされていたが、続く今作は、音楽番組やフェスへの露出を高めての"外に向けた声明"だった。最終曲に選ばれたタイトルは「Peace attack」。混沌とした世界と、それを暴力によって解決しようとした自分たちの国。目を背けることができない現実に対しノイズを浴びせるのでなく、長い思索の果てに、自身のギターへと確かな思いを託す一曲。ぜひアルバムを手に取って聴いてほしい。そこには昔と変わらぬバンドのカウンター姿勢と、新しい表現へ向かっていく彼らの活動姿勢が鮮明に浮かび上がっている。



終わりに。最初に書いた「Sonic Youthとは~」という項に、ファンとしてこれだけは付け加えたい部分がある。彼らは「大体いつも同じことをやってる」と思われがちだ(確かに曲構成や演奏にそうした側面も多分にある)が、「アルバムと時間を重ねるとともに、そのスタイルは脈々と更新されていた」ということだ(ほんとに、過去形なのが悲しい)。ひたすら可能性を求め数作でバンドを解散してしまうような姿勢も尊いが、長く積み重ねてきたものによって確信をもって鳴り響いてくる音もある。今作もそんな一枚。既に大ベテランバンドであったソニック・ユースの、日和見なきクールな自己更新作だった。

次作「Rather Ripped」ではロックバンドとしての初期衝動への回帰を目指すわけだが、それはまたいつか。「ソニックユースは90年代前後の代表作しか聞いてないなー」という方には、ぜひ装いを新たにした、2000年代のアルバムを手に取ってみてほしい。
Rating : 85 / 100  ★★★★☆




オマケ・関連作

Arto Linsay / INVOKE (2002)
同じくNO WAVEに端を発し、個性を失わないまま都会的な洗練に辿り着いた、アート・リンゼイの傑作。
Illuminated Arto Lindsay - YouTube


Dinosaur. Jr / Beyond (2005)
SYが羨んだ、同じくグランジを生き抜いた轟音ノイズポップの猛者も、このころ新たなキャリアを歩み始めていた。内容だが、20年たっても何も変わっていない。それでいて中だるみすらない(あるいは全編たるみ続けている)勢いの最高さよ。こういう非成熟もある。
Dinosaur Jr. - Almost Ready - YouTube
詳しくは→Dinosaur Jr 全フルアルバム感想
     

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サム

Author:サム
旧一人音楽座談会。
「もう一回聴いてみよう」「こんなのもあるのか」が好きで、「これだけ聴けばいい」が嫌い。普段はTwitter↓にいます。

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