Radiohead / A MOON SHAPED POOL(2016) 感想- この2016年にHTTT2に至らなかったのは


なんて冴えたアートワーク。歌詞の掲載はアーティストが拒否した模様で、国内盤は対訳つき・SHM-CDという仕様。ライナーノーツが入っていないのは残念だけど(実際、なんでだ?)、レディオヘッドまでいくと無い方がいいのかもしれない。

太字(良い)>普通 赤太字は名曲 、斜体はリードトラック、下線は個人的なベストトラック
トラックリスト
01. Burn the Witch – 3:40
02. Daydreaming – 6:24
03. Decks Dark – 4:41
04. Desert Island Disk – 3:44
05. Ful Stop – 6:07
06. Glass Eyes – 2:52
07. Identikit – 4:26
08. The Numbers – 5:45
09. Present Tense – 5:06
10. Tinker Tailor Soldier Sailor Rich Man Poor Man Beggar Man Thief – 5:03
11. True Love Waits – 4:43

Total length : 52:31

『The King of Limbs』から3年、レディオヘッドが通算9作目となる『A MOON SHAPED POOL』(以下AMSP)をリリースした。5月上旬に突然のデジタルリリース、下旬にはツアー開始、6月にフィジカルリリース……とバンドは着々と活動を進めており、既に多くの批評・感想もあがっているが、サマーソニック2016での待望の来日公演前に、自分もザッと今作について考えておきたい。今回は前段として、音楽性の前に作品の外側というか、立ち位置みたいなものについて書こうと思う
 
 
音楽性・趣味性にかなりの比重が置かれていた前作と異なり、今作はかなり多角的で、万華鏡のような佇まい……つまりポップ性に溢れたアルバムだ。全体像を掴みきれない音楽的スケール、それでいて聴き手を惹きつけるキャッチーさ。『In Rainbows』と同様、多くの人を渦に巻き込み、それぞれが様々な視点を見出していけるような素晴らしい一作となった。

なんとなく、安直な発想として最近のジャズ、R&Bの流れに少し影響うけてくるんじゃないか?とも思っていたが、よくよく考えてみればトム・ヨークの音楽への根本的な興味は『Kid A』『Ammenesiac』時点でほぼ完結しているのだ。特にエレクトロニカ、追ってダブ・ステップへの傾倒が見られたが、それを「如何にバンドに落とし込んでいくか?」。それがHTTTから延々と続いていたレディオヘッド、というかトム・ヨークの音楽的な命題だったが、彼は2014年のソロ作『Tomorrow's Modern Boxes』においてついにそこから離れた。続いて突発的に発表された佳曲「Youwouldn'tlikemewhenI'mangry(なんて面倒なタイトル)で見せた表情、本作はその延長線上にあると思うし、「徹頭徹尾トム・ヨーク」といった趣だが、それでいて「完全にRadioheadの音楽」なあたりにこのバンドの強度をひしひしと感じる。物凄く乱暴にいえば、ジョニー・グリーンウッドがいる限りRadioheadはトムのソロワークスには絶対ならないのだ。この辺は後編にて。



HTTTとAMSPの関係性
このアルバムを端的に捉えるのは相当難しいと思うが、ロックバンド評らしく彼らのディスコグラフィを借りて表現するなら、”『Hail To The Thief』(以下HTTT)の対極”という風に自分は感じる。HTTTの構成は大まかにはこうだ……一曲目で耳をつんざくような警鐘が鳴らされ、現代社会につきまとう強迫観念、子供が生きる将来の世界への憂い、怒り、悩みがひたすら歌われ、最後は「このテープ誰か止めてくれないかなぁ」という一節で締められる(そんなメッセージの数々が、エドの言う所のポップソングとして鳴らされたのがHTTTの弱点で最大の魅力)。ハリウッド産業や結婚式の一幕にまで口を出してくるように、HTTTはひたすら外へ視線を向けて作られた一作と思う。

対してAMSPはひたすらに外でなく内に目を向けていく構成だ。一曲目でけたたましい弦合奏から警鐘を鳴らすところまでは一緒だが、今のレディオヘッド……というよりやはりトムは、このサイレンに対してあろうことか2曲目で「Daydreaming」に身を預けてしまう。そしてその後は心象世界を漂うばかりで、自分と――せいぜい「you」くらいしか出てこない。10曲目の終わりにもう一度目覚めの機会が設けられるが、その後にわざわざ過去の名曲を子守唄として掘り返してきて、「行かないで 行かないで」というHTTTとは真逆の願いをこめてAMSPは幕を閉じる。悲しいことに、スッと目が覚めていったような感覚でアルバムは唐突に終わってしまうけれど。


2016年のなかで、異端な立ち位置に在る本作
AMSPのそうした方向性を「長年のパートナー、レイチェルと離婚してしまったトムの嘆き」と受け取るのは簡単(で無茶苦茶に説得力があるの)だが、もう少し話を広げたい。今作は間違いなく2016年の注目作で、実際チャートアクション・評価ともに申し分なかったが、他の注目作の多くとは明らかに空気感が異なっていたのが印象的だった。むしろ今のタイミングこそ「HTTT2」の方が意味を成すとも思うが、そこで今作のこの佇まいは何だろう。この作品に怒りや喚起、明確な提起といった要素はない。シリアスではないし、逃避的な感覚はあるけど、かといって桃源郷的なイメージや多幸感、ユルく躍らせてくれるような律動も持ち合わせてない。ただ、何かに対して「行かないで」という切実な思いだけは確かにある。もしこのアルバムの横にもう一枚置くとしたら、自分はJames Blakeの『The Colour In Anything』を選びたい。特にその表題曲を。

最近の世界情勢を踏まえると、すこし恐ろしいほどにプライベートな内容で、だからこそ一番どうでもよくも見えるし、一番重要なアルバムにも感じる。アーティストとして在る前に一人の人間として人生の帰路に際し、自己完結型の思索に立ち戻ってしまったトム・ヨークの語りは今にどう響いてくるだろう?ところで、「A MOON SHAPED POOL」と名付けられたこのアートワークは本当に素晴らしい。何かが抜け落ちたような、いや、浮かび上がっているような……。
 
Rating : 90 / 100  ★★★★☆



さて、こんなアルバムと共に、Radioheadはどんなライブを見せてくれるのか。そこでまた見える景色がガラッと変わりそうだ。今回はここまで。楽曲については後日ライブ感想と共に更新したい。とりあえず自分はトラックリストに色づけした辺りの曲が大好きで、tr5 - tr8の流れがハイライトに思っています。あぁ、本当に楽しみ。
     

タグ: 16年 50分台 傑作

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サム

Author:サム
旧一人音楽座談会。
「もう一回聴いてみよう」「こんなのもあるのか」が好きで、「これだけ聴けばいい」が嫌い。普段はTwitter↓にいます。

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