Arto Lindsay / Cuidado Madame (2017) 感想  ノーウェーブ、ブラジル音楽の証人が立ち会わせた2017年


タイトルはブラジルのニューシネマ映画から、アートワークはタイの現代美術家からとのこと。国内盤のライナーノーツは人名、単語の解説が参考になりました。

太字(良い)>黒 赤太字は名曲 、斜体はリードトラック、下線は個人的なベストトラック
トラックリスト
01. Grain By Grain
02. Each To Each
03. Ilha Dos Prazeres
04. Tangles
05. Deck
06. Vao Queimar Ou Botando Pra Dancar
07. Seu Pai
08. Arto Vs Arto
09. Uncrossed
10. Unpair
11. Pele De Perto
12. Nobody Standing In That Door (Bonus Track)

Total length : 42:11


このアルバムを再生すると、さながら得体のしれない森の中に放り込まれた感覚に陥る。メルヴィン・ギブスの、ベースラインになっていないベースを灯火に何とか進んでいくと、ふとした瞬間道が開けて、温かい光が一面を照らした――かと思えば、男のささやきと共にまた奇妙な世界に引き戻されてしまう。ここは一体どこで、どうしたらこんな場所に行きつくんだろう?こんな景色は見たことがない。(Grain By Grain)



アート・リンゼイといえば、1970年代後半にあの歴史的編集盤『NO NEW YORK』でその名を轟かせてから幾星霜、あれ、この人何歳だ?1953年生まれ、63歳。すげぇ……。このひとの、「ノーウェーブ - オルナタ - エレクトロニカ - ブラジル音楽」と並べてしまうその音楽性は、ブラジルに学校の音楽の教科書くらいのイメージしか持ち合わせていない自分にとって、住んでいる街に全く知らない場所を発見したような感覚があり本当に魅力的です。そして待望の今作。昨今のジャズを取り込み、集大成であり「往年」では一切ない、ひとりの持つ深い歴史と時代の現在地が交差したような傑作となりました。


2010年以降の音楽の流れ……流行にかまわず自分たちの音楽史観でジャンルを自由につなぎ合わせていったインディシーンの動き、その流れを受けてより自由になったヒップホップ、からメインシーンへの広がり。この流れを一言でいえば「ノンジャンル化」ですが、まずそこに在るのは「ジャンル(時代)の壁を越えた接触」です。そして、そういった出会い・邂逅から音楽を作っていくスタイル、それをピストルズが解散した1970年代末から実践してきたひとりがアート・リンゼイな訳で、その意味でも今作の発表は本当に良いタイミングに感じます。
(詳しくはこちらを
ノーウェーブ/ジャズ/ブラジル/オルタナと渡り歩く「Arto linsay」の話


時代と個人のクロスオーバー
既に大ベテランであるアート・リンゼイは今作も今まで通りに演奏していますし、根っこの作曲に新鮮さはない。でもこのアルバムは、それがそういうものとして今も遺されているだけで意義があるような「化石」でもなく、時代の流行という興奮剤を注入し続けて何とかその姿を保ってるような「ゾンビ」でもなく、自分の歩んできた道の先にしっかり今の景色がつながっている、進行形の、生きている作品に感じられる。

何故かと言えば、今作におけるアップデート(特にビート感覚)を実際に成したのが、齢60のリンゼイではなく、"Paul Wilson"や"Kassa Overall"といった若手だからだと思うんです。Mikikiの記事から引けば、今作は「(アートいわく)「私とメルヴィンのオジさんチームと20~30代の若手の融合」、そして同時に、その根っこの音楽性はまぎれもなくアート・リンゼイ。つまりこれは、(引き合いに出すのは少し気が引けますが)ボウイの遺した『Black Star(★)』と同じく、ジャンル云々の前に、「時代(の才人)」と「個人の歴史・視点」のクロスオーバーなんですよね。だから今作は生きて聴こえるし、新しい。ロックバンドのようにそれ自体が単独で「歴史」である必要があると難しいですが、創作活動においてはきっとこれが理想形なんだと、この二作の完成度と面白さから強く感じます。



Cuidado Madame
各曲のメモ書きを。やたら良いキーボード系の仕事はPaul Wilson、tr2などの打ち込みと生ドラムスの先鋭的な融合、この辺がKassa Overall。tr3はトロピカリアのような音の波がノイズもエレガントに響かせる。アルバム通して、プログラミングで作り込まれた部分とバンドセッションの感覚が混在しているのも特徴で、tr4のメルヴィン・ギブスのブレた生々しいベースプレイは痺れる。tr6は、仕事をしないベース、Prince / kissばりにその役割を担わせられるキック、音階なきPercという無和音感のなか、救いが期待されるギターを担当するは"アート・リンゼイ"というN.C.地獄の一曲。低音感はダンチだけどD'Angelo / 1000 Deathsに近い感触あり。そしてtr8 - 11の流れ!DNAの再誕tr8、それをグリッチノイズ・ビート化したようなtr9、儀式的なアタバキのリズムからTHE LOUNGE LIZARDSのリベンジとばかりにフリーインプロに突入していくtr10、すべてを包む極上のクラシカル・ボサノヴァtr11。リンゼイの過去と現在を凝縮したこの4曲の流れには成す術なしです。この並びは古今東西この人以外ありえない。


"今"というフレームワークにありつつ、"シーン"とか"年間"なんて短い単位の中には納まらない、深いスケール。「最高」という語句がつくかはひとによると思いますが、今作が「傑作」なのは間違いない、です。
Rating : 86 / 100  ★★★★☆





<関連作>

『Estrangeiro』 / Caetano Veloso (1989)
リンゼイの創作姿勢には、トロピカリアの始祖となり、ブラジル音楽界のレジェンドとして五輪開会式にも登場した「カエターノ・ヴェルーゾ」の後ろ姿があります。遡って1989年、ヴェローゾ氏は当時モダンな存在だったアート・リンゼイを迎えてアルバム『Estrangeiro』を制作しており、ここで聴けるのが『Cuidado Madame』の志向を1989年に鳴らしたようなオルタナMPBで、これには、「あぁ、この時は立ち位置が逆で、このスタンスを継承しているんだ」と若輩リスナーながら感動してしまった。ele-kingが特集本を出しているんですが(なんて果敢な試み!)、対談掲載とのことで、まず自分はここから掘っていきたいです。
別冊ele-king アート・リンゼイ――実験と官能の使徒


『SONIC NURSE』 / Sonic Youth (2004)
全然違うだろ!?と言われそうだけど、リンゼイが「外部ミュージシャン」に接近して更新してきたというなら、本作は「外の現実」に目を向けて更新が行われたわけで、ある意味近い存在……たぶん。詳しくは、手前味噌ですが記事を。
Sonic Youth / Sonic Nurse (2004) ―シティ・ポップが夢見なかった都会
     

タグ: 17年 傑作 40分台

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サム

Author:サム
旧「一人音楽座談会」。
音楽に限らず、作品やアーティストに対する検索結果がもっと充実したらという気持ちで更新しています。「もう一回聴いてみよう」「こんなのもあるのか」が好きで、「これだけ聴けばいい」が嫌い。
背景はBOCの「Tomorrow's harvest」。Twitterは↓。

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