アート・リンゼイはノーウェーブ/ジャズ/ブラジル/オルタナを渡り歩き続ける オススメアルバム

ニューヨーク出身ブラジル育ち。「ノー・ウェーブ」と「ニュー・ウェーブ」の両方に属した稀有な人物。また、パンク・カルチャーを受けて古典的なジャズ界にカウンターをうった「フェイク・ジャズ」に関わり、ソロ・ワークスでは「ブラジル音楽(MPB)」に対して、自身が通過してきたアバンギャルド、ジャズに加えて「打ち込み」「エレクトロニカ」「グリッチノイズ」といった要素を取り込むことで、時代の一端に共振しながら現在もオルタナティブな可能性を広げ続けている

アート・リンゼイです。今回は2017年に発表された『Cuidado Madame』によせて……「名前は聞いたことあるけど」という方には紹介に、「以前聴いていたけど」という方には、2017年現在もキャリア・ベストを更新している彼の新譜を手に取るキッカケになればと思い、改めて記事を更新します。
35-artohand_bw_by_noemi_elias_large.jpg
http://www.righteousbabe.com/pages/arto-lindsay


<目次>
No Wave: DNA (1978)
New Wave: Ambitious Lovers (1988)
Fake Jazz: Lounge Lizards (1981)
Alternative MPB: ソロ・ワークス (1996~)
現在 傑作『Cuidado Madame』 (2017)




DNA
ジャンル:No Wave

まずは時計の針を40年(!)ほど戻して、1978年。パンクを足がかりに始まるも着地点を失ったまま突っ切った結果、ポスト・パンクとも称されず分岐した異形の音楽形態、"ノー・ウェイヴ"が鳴ったワンシーンから。アート・リンゼイの代名詞といえばこのギタープレイで、今見ても奇天烈、愚劣、いや鮮烈。演奏経験なし(!?)のDrイクエ・モリらとともに、既存音楽を解体しにきていた。「エレキギターを買った時、ノイズを買ったのさ」とはSonic Youthのサーストン・ムーア御大の言葉ですが、「12弦ギター買ったけど10本しか弦張らない、チューニングしない、コード一つも覚えないでノイズ・パーカッションとしてのみ扱い続けて40年経った」(!??)のがこのひと。その半ば一発芸的なスタイルは、さながら一代限りの伝統芸能となり今も続いています。

DNAを筆頭に、当時局所的に発生していたシーン・風景を、ブライアン・イーノが見事に記録した『NO NEW YORK』も、今では歴史的なコンピレーション・アルバムとなりました(これは本当に素晴らしい仕事だなと、後追いとしては感じ入ります)。一定数以上がこんな方向を向いていた時代に、リンゼイのキャリアは始まった。
『DNA on DNA』(1978)  



Ambitious Lovers
ジャンル:New Wave

先の動画一発で「あ~こういうひとね」となる所ですが、短命すぎたノー・ウェーブの終焉後も、そのスタイル――ポスト・パンクの姿勢、挑発的な演奏――を、積極的に他所に持ちこんでいったのが、他と一線を画すアート・リンゼイの活動最大の特徴です。

1980年代には、プログレバンド「Island」のKye奏者だったPeter Schererと共に、奇妙なポップバンド「Ambitious Lovers」を結成。「Copy me」はいかにも時代におあつらえ向きなドラムスとファンク感に、あのノイズを絡めた痛快な一曲でした。ところでこのファンキーなギターカッティングはもちろんゲストミュージシャンによるもので、この曲における奏者としてのリンゼイの仕事は"歌"と"ノイズ"だけです。この辺も後述するような彼の創作姿勢が表れてるのですが、それにしたって潔すぎるぜ……。
『Greed』(1988)  



Lounge Lizards
ジャンル:Avant-garde jazz (フェイク・ジャズ)

少し時間軸は前後しますが、ノー・ウェーブやパンクの波は当時のジャズシーンにも及んだ訳で、その代表として、John Lurie が結成し、「フェイク・ジャズ」と名付けられた音楽集団「Lounge Lizards」があります。ここで"フェイク"の役割を大きく担ったのが、ギタリスト(もちろん和音もスケールも弾かない!)として参加したリンゼイになります。これも強烈な異種配合だった。

ただ今作はリンゼイのリーダー作でもなく、一芸に終始しているためプレイとしては出落ち感強め。しかし、ポスト・パンク的にオールドジャズを演ったアルバム自体は秀逸です。シカゴ音響派が90年代(歴史的には改めて)取り組んだ「電子ジャズ」と同様、アウトサイダーなジャズとして興味深いです。ここでは、この流れに"呼ばれた"のが重要かなと。
 『Lounge Lizards』(1981)



ソロ・ワークス
ジャンル:MPB (アヴァン・ポップ)

そして90年代、彼はソロ・ワークスにおいて自身の過去と今の接点を探しに行きます。NYに生まれながら、多感な時期(3~17歳)をブラジルで過ごしたその記憶――MPB、サンバ、ボサノヴァ、ポルトガル語。ここでは前衛から距離をおき、また違う景色を広げていきました。
 『The Subtle Body』(1996) 



その活動が落ち着いてきたところで、ある試みから彼はさらなる飛躍を遂げる。「自分のルーツであるMPBに、先に紹介したような彼自身の音楽キャリアと、90年代後期のエレクトロニカを加えてみよう」――そうして生まれたのが、"アヴァン・ポップ"と称された1999年以降の作品群です。ここからのアルバムはどれも集大成で最新形、素晴らしいものが多いのですが、中でも『INVOKE』(2002)は、異国からの訪問者がNYで見た美しくて残酷な夜景……のようなサウンドスケープを持った快作。初めてだけどアート・リンゼイ聴いてみたいな~という方には、ぜひこちらをオススメします。


この時期の活動は、音楽性の混合具合もさることながら、共演陣もDavid Byrne、坂本龍一、コーネリアス、Matthew Herbert、アニコレのPand Bearと全く読めないものでした。そしてここに、このひとの変わらない視点、創作姿勢があります。インタビュー記事を持ってきましょう。

「そもそもの話で言うと、音楽はいろんなものが混ざり合って、変化し、発展することが重要だと思っているんですが、1980年代という時代は多くのミュージシャンがその意識を共有していたんです。」

「90年代に入るとDJ文化が出てきて、今度はレコードを通じて音楽が混ざり合っていったんですよね。そして、今はその役目をインターネットが担っている。」

「僕は気になった人には自分から会いに行くということを大切にしているんです。アーティストは自分が興味を持って、追求したいものを選べる立場にいるとも思っているので、そこは常に意識的で。」

日本に魅せられた音楽家アート・リンゼイの交友関係の秘密を探る - インタビュー : CINRA.NET


先ほど挙げたような活動を踏まえていくと、このスタンスと時代認識は本当に説得力がある。今回紹介した五曲は、まさにリンゼイの視点・個性から色んなものが混じり合って生まれたものです。

興味をもたれた方は、ぜひこのアーティストの諸作を手にしてみてください。きっと見たことない景色・歴史が感じられると思います。



現在
で、今回の更新理由なのですが、2017年、ついに新譜がリリースされました。ヒットチャートでないシーンの潮流を横目にMPBを更新してきたアート・リンゼイ。2004 - 2016年という劇的な音楽の進化を受けてアップデートしたらどんな音が鳴るのか?

これが、正直いって"最高傑作"と呼べる代物でした。『Cuidado Madame』。
記事は一度分けますが、うーんやっぱりこのひとは凄いっす。

Arto Lindsay / Cuidado Madame (2017) 感想  ノーウェーブ、ブラジル音楽の証人が立ち会わせた2017年
     

タグ: アーティスト紹介記事

コメント

コメントの投稿


非公開コメント

プロフィール

サム

Author:サム
旧「一人音楽座談会」。
音楽に限らず、作品やアーティストに対する検索結果がもっと充実したらという気持ちで更新しています。「もう一回聴いてみよう」「こんなのもあるのか」が好きで、「これだけ聴けばいい」が嫌い。
背景はBOCの「Tomorrow's harvest」。Twitterは↓。

カテゴリ
Twitter
リンク
クリックで展開
NewCcounter