コード進行で名曲を紐解く:ブルース進行と革命児Princeの「kiss」

音楽を聴くうえで特別意識することもないですが、誰の耳も無意識に認識し、その楽曲の印象を決定づけているもの。それが「コード進行」です。今回はその中でも「ブルース進行」、そして故Princeが残したストレンジすぎる全米No.1ヒット曲「Kiss」を取り上げたいと思います。(もしまだこの曲を聴いたことない方がいたら、記事を読み進める前にぜひ一度聴いてみてください。これが首位を獲得したことに戸惑い、いろいろと笑ってしまうはず……)

コード進行についての説明から始めるので、すでに知っている方はその項を適宜とばしていただければ。

1.そもそも「コード進行」って何だ
2.古から伝わるポップスの起源「ブルース進行」
3.時代に使い古されるコード進行、形式
4.革命児Princeが創った異形のブルース進行曲「Kiss」




1.そもそも「コード進行」って何だ
話に入る前に、まずはWiki先生の「ポピュラー和声」のページを見てみましょう。

「和声……つまりハーモニーは、メロディ、リズムとともに、音楽における要素の一つを指し、時間の流れの中でコードとコードを連結するときに起こる動的な響きの変化を、広義にいうものである」

Wikipedia: ポピュラー和声

お、おう……待って、まだ帰らないでください。これじゃ何のことかサッパリなので、具体的に曲を聴いて、この文が何を指しているか掴みます。

頭のなかで井上揚水の「少年時代」を再生してみてください。イントロのピアノです。(打ち込んでいる人がいたので拝借。最初の二小節)


♪ダーン・ダーン・ダーン・ダーン・ダーン・ダーン・ダーン・ダーン……

とピアノが鳴っています。ここで、単純なドレミファの違いを意識して、この「ダーン」を分けてみると、下のようにこうなります。もう一度再生。

♪"ダーン・ダーン" → "ダーン・ダーン" → "ダーン・ダーン" → "ダーン・ダーン"……

さらに分かりやすくするため、それぞれの「ダーン」をアルファベットに置き換えて、同じ音(ダーン)が続いている所を1ブロックとしてまとめます。すると、「少年時代」のイントロは以下のような記号で表すことができるんです。

♪A → B → C → D

この「A」「B」「C」「D」という音の塊(ダーン = コード、和音)、そして「→」の音の変わり目(進行)、このふたつの連なり(A→B→C→D)が、俗に「コード進行」と呼ばれるものです。自分の好きな楽曲を(ファンク、ポスト・パンク系はダメ)脳内再生してみて、何となく「音(雰囲気、伴奏)の変化」がイメージできれば、大体それで間違いありません。かなりザックリですが、今回はそうした認識で読み進めてみてください。聴いていくと掴めます。



2.古から伝わるポップスの起源「ブルース進行」
「コード進行」のザックリイメージを掴んだ所で、数限りなくある進行の中でも最もポピュラーなもののひとつである「ブルース進行」を聴いてみましょう。ここは1930年代(!)後半のデルタ・ブルースから「Sweet Home Chicago」を。先ほどと同じく、音(雰囲気、伴奏)の変化を、今度は3つの数字(Ⅰ、Ⅳ、Ⅴ)とアルファベットでブロック分けし、ワンコーラス聴いてみます。ブロックを渡るときの雰囲気の流れを感じてください。



(Ⅰ:Aブロック)
ドッドゥ・ディッドゥ・ドッドゥ・ディッドゥ....
♪Oh~

(Ⅳ:Bブロック)
♪baby don't you want to

(Ⅰ:Aブロック)×2
ドッドゥ・ディッドゥ・ドッドゥ・ディッドゥ....
♪go...

(Ⅳ:Bブロック)×2
ドッドゥ・ディッドゥ・ドッドゥ・ディッドゥ....
♪Oh~ baby don't you want to

(Ⅰ:Aブロック)×2
ドッドゥ・ディッドゥ・ドッドゥ・ディッドゥ....
♪go....



(Ⅴ:Cブロック)
ドッドゥ・ディッドゥ・ドッドゥ・ディッドゥ....
♪Back to the land of California

(Ⅳ:Bブロック)
♪To my sweet home~

(Ⅰ:キメ)×2
♪ Chicago
トゥレロトゥレロトゥレロ....以下省略


コード進行の流れがつかめたでしょうか。ブルース進行をザックリまとめると以下のようになります。
  ヴァース(Aメロ):Ⅰ→(Ⅳ)→Ⅰ...→Ⅳ→Ⅰ
  コーラス(サビ):Ⅴ→Ⅳ
  戻り:→Ⅰ...
この進行はブルースに留まらず、至る所で流用されている黄金のテンプレートです。もう少し「ポピュラー音楽」まで時計を進めて、1965年、ジェームス・ブラウン御大の「I Got You (I feel good)」を再生してみます。「あっ、さっきのと何か曲の流れが似てる!」と、この進行の肝が掴めるはず。


(Ⅰ:Aブロック)
♪I feel good.
(Ⅰ:Aブロック)
♪I knew that I would now.
(Ⅳ:Bブロック)
♪I feel good
(Ⅰ:Aブロック)
♪I knew that I would now



(Ⅴ:Cブロック)
♪So good,
(Ⅳ:Bブロック)
♪So good,
(Ⅰ:キメ)
♪I got you



こんな具合に、この進行(テンプレ)は多くのジャンルのアーティストに用いられてきました。
星の数ほどあるなかから抜粋すると、
・ロックンロール:Chuck Berry / Johnny B. Goode (1958)
・ファンク:James brown / Papas Got A Brand New Bag (1965)
・ハードロック:Led Zeppelin / Rock and Roll(1971)
・パブ・ロック:Dr Feelgood / She Does It Right(1974)
・ガレージ・ロック:THEE MICHELLE GUN ELEPHANT / キャンディ・ハウス(1996)
....etc.



3.時代に使い古されるコード進行と形式
ということでブルース進行は、古今東西、あらゆる楽曲制作の基本のような由緒ある進行なのですが、それゆえテンプレート感が強く、1950 - 1970年代あたりの楽曲量産の弊害もあって、今ではある種のクリシェのように「あぁ、こういうのね」となってしまう、悪く言えば手垢のついた進行、楽曲形式と化しました。

流行り廃りに近いものです。今のアメリカだと、コード進行ではなく「ビート」がメインになり、新しきが名付けられては古び、名付けられては古び……を繰り返してどんどん進んでいます。これ自体は自然な流れ、むしろ「新しい」を求めれば真っ当なものですが、乗るしかないこのビッグウェーブに的な状態には「お前もか…」と思うこともしばしば。非常に分かりやすくて遠くから観測する分には楽しいも、実際面白いかはしっかり見定める必要がある気がします。逆に日本はものすごくコード進行に囚われていて、かといって古びもしないので穏やかな死に近づいている感じ。この辺は今回の話からそれていくのでここまで……

話が脱線しましたが、ともかく、流行りの進行・形式というものがポピュラー音楽にある。しかして同じテンプレートだからといって簡単に曲のすべてが決まったりはしないのが面白いところで、やっと本題……今回の主人公"Prince"の代表曲の一つ、全米No1ヒットとなった怪・迷・名曲、1986年の「Kiss」です。



4.Princeが創った異形のブルース進行・ミニマル・ファンク「Kiss」
この楽曲は、"ベースレスのファンク・ダンスチューン"という自己矛盾みたいな構想、トラックを手で数えられそうなくらい極限まで音を削いだアレンジ、どの時代からみても異常なリズムマシーン音、(と今見るとナチュラルに笑ってしまうシュールなMV)……そんな要素から、鬼才プリンスの面目如実、長いヒットチャートの歴史の中でも他に例のない奇抜な大ヒット曲として有名です。ダンスで独自コンテンツ化したものがアップされていたので、拝借します。

良い動画だこれ
1番に鳴り響くのは、出音をクシャクシャに踏みつぶしたような打ち込み音、加工された"何か"とボーカルのみ。二番からは鍵盤打楽器(局所的にしか登場しないのがこの人らしい)、間奏からようやっとギターカッティングも入ってきますが、ドラマチックにバンドサウンドが!なんてことは一切なく、ひたすら変態が曲中に増殖していくように音が重なっていく。そしてプリンスのオーバーヒート・シャウト(いつもの)から決め台詞で完。いつ聴いても「生理的に気持ち悪い」、得体のしれない曲です。


それで、このめちゃくちゃ変なやつ、これも往年の「ブルース進行」で出来ているのです。ただし、ベースもなく、伴奏的な音すらないこの曲の進行に50s, 60sの匂いは全くない。2017年から見て「最新」かはともかく、往年どころか「異常」な雰囲気がここにまだある。ここにプリンスと制作者の仕掛けがありました。「Kiss」はベースレスで有名ですが、ベースラインはある。何者。"打ち込みのキック音"です。このオンビートの「ドゥン」だけで踊れるというカラクリ……ここは当時の制作者の語る逸話、発想が面白いです。

【プリンス追悼】エンジニア、デヴィッド・Zによる名曲「KISS」の制作秘話 | サウンド&レコーディング・マガジン 
「キックにだけ残響を残して疑似ベースライン化し、他の一切に残響をかけないことで、奇妙で生々しいサウンドを獲得する」。今では"時代を感じる"ものとなったリヴァーブ具合に豪華絢爛なシンセが踊るヒットチャートにあって、これは明らかに80sサウンドへのカウンターで、これをシングルにするのはヤバすぎる賭けでした。「チャララララララララ ♪kiss」という最強のポップ・フックと変なMVを添え、賭けの結果は全米1位。収録アルバムの『Parade』はそうした実験性とポップ感が出鱈目に結ばれた、密室ファンクとも呼ばれますが、なによりも異空間的な異常ミックスの傑作です。これを「オルタナ」とか「アート」とかロック側のジャンルで括るのは無理……
 Prince / Parade (1986)


ということで長くなりましたが、「kiss」は誰もが慣れ親しんだ古典的テンプレートに対し、誰も考えなかった視点からアプローチすることで、誰ひとり聴いたことのないサウンドに辿りつくという名曲だったのです。最後に、歌詞を踏まえてコード進行を追ってみましょう。構造的には、先の「I Got You(I Feel Good)」と同じ(コーラスの繰り返しが一回多いだけ)だということが分かるはず。そして、そのキメはPapas Got A Brand New Bagの影響を受けたものかもしれなくて。温故知新とカウンターから新しいものは生まれるんですね。(プリンスはこの進行が本当に大好きらしく、初期から晩年までちょっとした楽曲にその愛着を感じることができます。こんど聴き返すとき、ぜひ意識してみてください。)

(イントロ)

(Ⅰ:Aブロック)
♪U don't have 2 be beautiful...
(Ⅰ:Aブロック)
♪I just need your body...
(Ⅳ:Bブロック)
♪U don't need experience...
(Ⅰ:Aブロック)
♪U just leave it all up 2 me...



(Ⅴ:Cブロック)
♪U don't have 2 be rich...
(Ⅳ:Bブロック)
♪U don't have 2 be cool...
(Ⅴ:Cブロック)
♪Ain't no particular sign...
(Ⅳ:Bブロック)
♪I just want your extra time and your...

チャララララララララ 

(Ⅰ:キメ)
♪ kiss ♪


個人的には[Extended Version]よりシングルの3分ポップ感が至高……。
     

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プロフィール

サム

Author:サム
旧「一人音楽座談会」。
音楽に限らず、作品やアーティストに対する検索結果がもっと充実したらという気持ちで更新しています。「もう一回聴いてみよう」「こんなのもあるのか」が好きで、「これだけ聴けばいい」が嫌い。
背景はBOCの「Tomorrow's harvest」。Twitterは↓。

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