Wooden Wand / Clipper Ship (2017) 感想


会心のソング・ライティングを見せた新譜を取りあげます。まずはこのジャケに満点を……。

太字(良い)>黒 赤太字は名曲 、斜体はリードトラック、下線は個人的なベストトラック
トラックリスト
1. School's Out   04:02
2. Sacrificial  03:34
3. Mexican Coke   04:03
4. Mallow T'ward the River  06:37
5. One Can Only Love  08:43
6. Clipper Ship  04:45
7. Mood Indica (Reprise)  04:00

Total length : 35:44

音楽を聴いていると、ふとした音色や響きに一瞬で心を奪われてしまうような瞬間があります。それは人によってボーカルの息遣い、ピアノの旋律やノイズ(?)、重低音(??)と様々でしょうが、「ギターの音色」も数あるひとつ。自分が思い返すなら、スピッツの「ロビンソン」に初めて覚えた気がするソレは、シューゲイザー幾多のオルタナ勢に広がっていき、徐々にフォーク、カントリー方面にも向かっていきました。例えばRy Cooderの「Dark End Of The Street」、Wilco『Sky Blue Sky』、Beck『Morning Phase』のエンディングとか。

この感覚を持てる大切な一枚(一曲)が今年もまたひとつ見つかりまして……今作『Clipper Ship』、まずは一曲目「School's out」の1分すぎた辺りのペダルスティール・ギターを聴いてみてほしいです。



Wooden Wandとは
本作の主人公「Wooden Wand」は多作家「James Jackson Toth」の活動名義の一つで、本名義での活動は主にアメリカーナやUSインディに括られています。この人自体の活動はローファイ・フォークとサイケに始まり、WoodsのギタリストJarvis Taveniereらと組んで1曲35分のエクスペリメンタル・ロックを展開したりと多岐に渡っていますが、その根っこにある昔ながらのフォークやブルーズ、自身のルーツ色を表現していく場所として「Wooden Wand」の名が用意されている模様。Wikiみるかぎり本作は14作目です(たぶん)。日本でも一部のアルバムは国内流通盤が出ており、知る人は知るという存在なんですね……自分は本作にて知りました。


残響で語るフォーク
ルーツを横断していた過去作と異なり、『Clipper Ship』は明確に"歌"に焦点をあてた作品で、ある種Sufjan Stevensの名盤『carrie & lowell』に近い立ち位置の、モダンな音響を携えたコンテンポラリー・フォークとなりました。最大の魅力はギターの残響音、空気感。そしてそんな録音に乗る、すこしジム・オルークを思わせるような優しい歌声が、きっと誰の心にも静かに響く一枚です。この作風、もし隣に並べるとしたらSteve Gunnの『Way out Weather』でしょうか。

本作の歌詞は観念的な表現が多く、その真意はつかみづらい。しかし、単語数も少なくなっていく後半、その余白に綴じられた音に、今作で彼が表現したかったものがある気がします。ベストトラックは「One Can Only Love」。自然に湧いてきたようなメロディも素敵ですが、運命の相手の存在を感じ、祈りながらも、「One can’t just believe」と続き、そこから辿り着く「But one can only love」という答え。ここで彼は、その思いを音に全て委ねる。そして鳴り渡る間奏――ドローンのようなキーボードに幾多のギターの残響、音のレイヤーが折り重なっていくようなサウンドスケープが本当に素晴らしい。アルバムはタイトルである「帆船」が登場したのち、もう一度、祈るように「One Can Only Love」を反芻し幕を閉じます。



本作は2017年に発表されましたが、何かを象徴する記念碑でもマイルストーンでもなく、ひとりのSSWが15年かけて辿り着いた景色――その記録として、これからも続いていく誰かの一日に寄り添うものです。「今年はこう」という狭い場所から抜け出して、数年後に誰かがこの一枚を何気なく中古レコード屋で手に取ったとして。その時、本作の音はなに一つ色あせずに鳴るはずです。
Rating : 82 / 100  ★★★★



関連作
"卓越したギター録音"で3作。


・Kurt Vile / Smoke Ring for My Halo (2011)
USインディ代表。これもある種のドリームポップやサイケか、ローファイをヒントに靄を得た、夜に佇むスモーキー・フォークは至極。個人的には2000年代屈指くらい好きな音です。
詳しくは手前味噌ながら→Kurt Vileについて ~過去と今を結ぶ、USインディの理想像
Kurt Vile - Baby's Arms - YouTube


・Mac Demarco / THIS OLD DOG (2017)
同ルーツからUSのホープとして。ユルさ、ライブのトビ加減に注目が集まりますが、音の分離、さりげなく今作の録音クオリティはガチ。レイドバックしたグルーヴの魅力に加え、「moonlight on the river」のサイケ感も注目。
Mac DeMarco // One Another (Official Video) - YouTube


・Nelse Cline / Lovers (2016)
ジャズにインプロにWilcoをまたぐ天才ギタリストのブルーノート・デビュー渾身の一作。Wooden Wandが15年なら、こちらは構想25年。その月日が生んだ音の深みは……。
Nels Cline - The Bond (Audio) - YouTube
     

タグ: 17年 30分台 秀作

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サム

Author:サム
旧一人音楽座談会。
「もう一回聴いてみよう」「こんなのもあるのか」が好きで、「これだけ聴けばいい」が嫌い。普段はTwitter↓にいます。

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