音響派?ポストロック?シカゴの無国境バンド「The Sea and Cake」のオススメ

(2016/11/15に内容を更新しました)
The sea and cakeの個人wiki的な紹介記事第一弾。

The+Sea+and+Cake.jpg
画像出典・http://holdmyticket.com/event/119325
ザ・シー・アンド・ケークは、1994年に活動を開始した、トータスらとともにThrill Jockeyをさりげなく代表する、シカゴの……不思議なバンドです。彼らの音楽をジャンル分けするのは割に難しい。インディロック、あるいはポストロックに括るか。はたまたポストジャズ?エレクトロニカ?ライト、ソフトロック?ブラジル音楽やボサノヴァを引き合いに出されたりもするし、時期によっても違く、実際これは多分どれでもあるしどれでもない。

言えるのは、このバンドが自由にジャンルをまたいで無二の音楽を鳴らしてきたこと、そしてヒットチャート的な文脈の外で20余年あまり活動し支持され続けてきたこと、この二つです。キーワードをあげるなら、ソフト・ロック、シカゴ音響派、ポスト・ロック(ポップ)、エレクトロニカ(バンド)あたり。このページを訪れた人がどんな風にこの名前に出会ったかは分からないけれど、このよく分からなくて素敵な音楽を手に取るキッカケになれば。
今回は第一弾、バンド紹介として「メンバー」と「初めて聴くなら」です。


メンバーについて
・Sam Prekop (vocals, guitar)
・Archer Prewitt (guitar, piano, vocals)
・John McEntire (percussion, drums, some synthesizer)
・Eric Claridge (bass, synthesizer)


シー・アンド・ケークの起こりはインディの確変期である1980年代後半、ニューウェーブでもポストパンクの残骸でもなく独自の方向を向いていたミュージシャンたちが軽いノリで一堂に会したことによります。これがかなり曲者ぞろいのメンツで……。素っ頓狂なVoでボーダレスなヘンテコインディロックを鳴らしていた「Shrimp Boat」からまずSam Prekop、Eric Claridgeが。グランジからラウンジへの流れを作り、独特なセンスと愛嬌でローファイ~ジャズ~音響派まで手を伸ばしていった「The Coctails」からArcher Prewittが。そしてポスト・ハードコアの伝説的な存在となった「Bastro」からJohn McEntireが加入で、1994年に晴れて"海とケーキ"完成です。なんて脈略のなさ



それぞれ曲リンクを張っていますが、どれも一曲で全容がつかめるようなバンドでは全くなく、この辺を掘っていっても相当面白いのですが、今回の主役はシー・アンド・ケーク。活動地帯くらいしか見当たらない彼らの共通点は、「目標とする音楽性」がなかったことです。ここでひとつ、様々な"ポスト"ミュージックに関わってきたジョン・マッケンタイアの言葉を。

「ハードコアもいまやってることも同じようなことに思えるんだよね。サウンドは要するに概観みたいなもので、重要なのはその奥にあるスピリットやフィーリングだと思うんだ。」 (上記Bastroのライナーノーツより)

彼らはデビュー作からプレスの高評価も受けつつも、レーベルの特性上過剰な売り出しにもあわず、いうなれば「プレッシャーのない創作環境」で、シカゴ人脈とメンバー間で影響を受け合いながら、これ以上ないしなやかさでその音楽性を広げていきます。



初めて聴くなら
天然ものというか、彼らの音楽は時期によって全く異なる姿を見せるので、ここでは3つに分けて簡単に。

初期:1994 - 1996
グランジの風も止んでいく頃にシーアンドケークは始まりました。初期は「オルタナティヴ・ソフトロック」みたいな感覚があります。が、その音楽性は形容できそうで出来なく、でも不思議とどこか懐かしくもある代物。

異国の旅人が口ずさんだようなメロディライン、サムの素頓狂なシャウト、ラウンジ発祥のライトギター、軽いタッチのジャズベースに、点(テンポ)でなく波(グルーヴ)でバンドを支えるドラミング。初期S&Cの個性が凝縮された一曲です。この辺りは前述の「Shrimp Boat」と「The Coctails」を発展させたものでもあります。


同時に、こんな哀愁を持った楽曲も出てくる。後にこれは、ボーカルであるサム・プレコップの、ボサノヴァやブラジル音楽を経由したコードワークによるものだったことが、彼のソロ1st『Sam Prekop』(プロデューサーのジム・オルークにして「自分の最高傑作」とまで言わしめた超地味な佳作的傑作)にて明らかになるのですが、それはまた別の話。「Parasol」はため息のでるような名曲です。

初期に括られるだろう作品は以下の三つで、初聴きには一番つかみどころのない『Nassau』がオススメ。どれも他にはない曲感覚を楽しめる好盤で、自分はこの時期が一番好きです。特にDrのマッケンタイア!この人もいろんなところで叩いてますが、ここで聴けるものが彼のベストプレイだと思ってます。他作については後日、ここではリード曲のリンクだけ張っておきます。
1st / The Sea and Cake (1994) ←習作ながらたるんだフリージャズみたいな無二の魅力
2nd / Nassau (1995) ←ピックアップ
3rd / The Biz (1995) ←初期の完成形


中期:1997 - 2005
アナログ的なサウンドを特徴としていた彼らの音楽性は、突如「エレクトロニクス」に接近することで大きな曲線を描き始めます。時代に並走するように、"ポスト"へと流れ込んでいった時期です。

それは1997年のこと。「シカゴ音響派」なんて言葉が紙面をにぎわせ始め、ProToolsといった機材とともに、ジャンルもなく全てが「音」として卓上に並べられた時代。tortoisestereolab、時代的にもこの変貌にはあの男が関わっています。中期は「エレクトロニカ」「ポストロック(ポップ)」、そして”ザ・マッケンタイア・ワークス”と呼べる作品群で、その雛形ともいえるのが上の「sporting life」。暖かいシンセにアンビエント的なアプローチを見せるギター、やけに空気感を録ったスネア、その中にゴリゴリのベースラインをねじ込ませて、全部違和もなく整然とたたずんでしまう音像設計は元ハードコア青年による匠の仕事。サムの声も一気に変わりました。


そして3年のブランクを経て、彼らは自他ともに認める最高傑作を手にします。2000年発表の『oui』。アルバム全面に取り入れられた、ポール・マーティンスによるストリングス&ホーンセクション。そこにヴィブラフォン、サムのウィスパー・ボイス、ソフト・ロックやボサノヴァの要素が混ざりあい、それらのマテリアルがポストロック的な音響によってひとつの絵となった楽曲群。それでいて堪らなくポップな魅力にあふれた本作の魅力は、ぜひ手に取ってみてほしいです。この辺が気に入ったら、ジム・オルークの国境横断ポップスThe ALUMINUM GROUPあたりを漁るのも楽しい。

多岐に渡る音楽要素を時代のテクノロジーでまとめあげた中期、この横断観を「ポスト・ロック」と括ったことには大きな意味があったと思うし、いちジャンルとなってしまった今この言葉から受ける定型的な印象を思うと感じ入ります。三者三様ですが、初聴きにはやっぱり『oui』がオススメ
4th / The Fawn (1997)  ←過渡期
5th / Oui (2000) ←ピックアップ 
6th / One Bedroom (2003) ←最も電子、野心的な作


後期:2006 - 現在
そして時は進んで2007年。偏ったアングルですが、改めてインディ――ひいき目に言えばその中でもロック、に注目が集まりだした時期ですね。少しの休止を挟み、ここで彼らは二度目の大転換を決めます。後期のキーワードは「ライトロック」「パワーポップ」、シンプルで直線的なバンドサウンドへの接近です。ココは景気よく、この記事更新時点での最新作から一曲。

ドライブ感あふれるエイトビートで軽快な楽曲を並べながら、澄んだアコースティックギターの音色、中期の電子音使いも織り交ぜたアルバムたちは、とにかく気持ちよくて心地いい。生活に清涼飲料水感が足りない方にオススメ(?)。ここにきて楽曲を引っ張り出したのが、端正なバンドアンサンブルの上に筆を走らせるようなエリックのベースライン、小気味好いギターリフで楽曲をグングン加速させていくアーチャーです。キャリア20年を経て、そのバンドスクウェアは今も変幻自在。


そんなカードライブに向きそうな音楽の中に、こんな一曲が紛れてくるんだから彼らはニクい。この時期の作品はどれも安定しているので、どれから入っていっても間違いないです。
7th / Everybody (2007) ←私的ベスト
8th / Car alarm (2008)  ←ピックアップ
mini / The Moonlight Butterfly (2011) ←ライトに音響派
9th / Runner (2012) ←老いも若いも




どうでしたでしょうか。彼らの音楽には、その変遷、中期に代表されるように、国境的な概念がありません。思い描かれるような枠や壁を興味本位でしなやかに越えて、そんなものなかったかのような景色を聴かせてくれる。そんなTHE SEA AND CAKE、ぜひに。


今回はこんなところで。次回は全アルバムの感想付けやら改めてできたらと思ってます。

オマケ(関連作?)
    

     

タグ: アーティスト紹介記事

コメント

たいへん参考になりました

THE SEA AND CAKE
全く知りませんでしたが、アップルミュージックでお薦めアーティストに入っていて聴いてみたらツボでした。
活動期間が意外と長くどの辺りのアルバムから聴こうかと迷いましたが解説されてる内容がとても参考になりました(^^)
ありがとうございます!

Re: たいへん参考になりました

JMarr さん、コメントありがとうございます。

Apple Music、すごいですよね。
自分も、よく知らなかったけど興味を持ったバンドを検索なりしながら聴きあさっています笑。

そんな中で参考になれたようでこちらもうれしいです!

名前はジョニー・マーからでしょうか?良いですねb
重ねてコメントありがとうございました。励みになります!

> THE SEA AND CAKE
> 全く知りませんでしたが、アップルミュージックでお薦めアーティストに入っていて聴いてみたらツボでした。
> 活動期間が意外と長くどの辺りのアルバムから聴こうかと迷いましたが解説されてる内容がとても参考になりました(^^)
> ありがとうございます!

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プロフィール

サム

Author:サム
旧「一人音楽座談会」。
音楽に限らず、作品やアーティストに対する検索結果がもっと充実したらという気持ちで更新しています。「もう一回聴いてみよう」「こんなのもあるのか」が好きで、「これだけ聴けばいい」が嫌い。
背景はBOCの「Tomorrow's harvest」。Twitterは↓。

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